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[コメント] 乳房よ永遠なれ(1955/日)

矢張り、田中絹代の映像感覚は面白い。のみならず、今見ても古びない驚きがある。例えば、分かりやすく驚かされる場面としては、月丘夢路が、森雅之杉葉子(夫婦)の家から、近くのバス停まで歩く、移動撮影のシーケンスショット(画面奥に川が見えている)だとか。
ゑぎ

 分かりやすく驚かされる場面ということで、その他には、後半の病院内の月丘の部屋に通じる陰気な通路や、死体安置所の扉へ続く、夜の廊下の演出だとかが挙げられるだろう。だが、もっとなんでもない普通のシーンでも、随所にハッとさせられる仕掛けがある。例えば、街中の公園で月丘が森と出会う場面(映画中でこの2人が初めてからむシーン)がとてもキャッチーな切り返し(ショット/リバースショット)なのだ。イマジナリーラインがよくわからない。このような繋ぎは、実は他にも何か所かある。あるいは、病院の窓には鉄格子があり、病室内で会話する月丘と葉山良二に、カメラが窓外から(鉄格子の向こうから)ゆっくりと寄るカットなんかも、とても現代的な(現在の映画でも採用されるような)移動撮影なのだ。

 そして、極めつけは、ベッドの横の床に寝る葉山に、月丘が添い寝する場面だろう。こゝで、ガラス板の下から撮ったカットがある。葉山のシルエットに月丘の顔が上から被さる、その後部に部屋の天井の照明器具が映っている仰角カット。つまり、床下からの視点、ということなのだが、こゝで、この視点の選択、というのは普通の感覚ではない。効果的かどうかを別として、何て面白いのだろう!

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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