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[コメント] エレニの旅(2004/ギリシャ=仏=伊)

なんの説明もない。理屈もない。なんの説明も要らない、理屈も要らない。たゞ画面のスペクタクルがあるだけ。これは最も純度の高いアンゲロプロスかも知れない。私も自分の好みで云えば、「アンゲロプロスの中で本作が一番」と云ってもいい(と書いた途端に例えば『狩人』に、例えば『永遠と一日』に置き替えたくなりますが)。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 まずは冒頭の、村の遠景のカットで瞠目。なんという統率力のある画面だろう。これに匹敵するロングのモブシーンって俄かには思い浮かばない。タイプは全然違うが、『史上最大の作戦』の戦闘シーンのあの有名なロングの長回し(連合軍の兵士達が、丘の上にあるドイツ軍の建物に向かって行く場面)に匹敵するレベルと云えるのではないか。そして、この村が中盤で水没してしまう、その画面を見た時の驚き。もう本当に奇跡の造型としか云いようがない。この村の描き方だけでも本作は映画史に突出する。

 前半の村の描写の中には、失踪したエレニを探し回る際の、裸馬の乗馬シーンというような西部劇的な画面があったり、また、随所で行われる男女のダンス、或いは、酒場や食堂の極めて濃密な空気、そして、カメラは緩やかに移動し続け、画面外から様々な情報、状況が出現し、複雑な感情を定着していく、といったアンゲロプロスらしさがどんどん繰り出されて、本作においても画面を唖然と見つめているだけで長尺があっという間だ。

 ただし、終盤からエンディングにかけて、少々象徴的に過ぎる演出が続く部分(例えば内戦で敵同士になった息子2人の見せ方、或いは息子たちをエレニが訪ねるエンディング)は、もっと描きこんで欲しかったという無いものねだりをしてしまう。こゝも極めてアンゲロプロスらしいファンタジックな処理ではあるのだが。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)赤い戦車[*] けにろん[*]

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