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[コメント] 信子(1940/日)

本作も道を歩く高峰三枝子のショットから始まる。画面奥から正面へ歩いて来るロングショットで、それをカメラがドリーで横移動しながら(道を横切りながら)撮影した、ちょっと浮遊感のあるカットになっている。
ゑぎ

 このオープニング、タイトルロールの信子(高峰)が、女学校の教師になるために、田舎から東京へ出てきた場面である、と書けばお分かりの通り、彼女の希望に満ちた心持ちを、素直に表現したカメラワークなのだ。こういった演出の素直さが、清水宏の特徴だ。ある意味、この冒頭で映画全体の基調を宣言していると云っても過言ではないだろう。苦悩や不寛容といった暗い部分もなくはないが、全体に明るく朗らかで、力強い、ポジティブな精神が描かれる。

 さて、本作は、もう一つの清水宏の特質である、「大きな声で人の名前を呼ぶ」という演出も、とても印象に残る映画だ。名前を呼ばれる対象は、反抗的な生徒、三浦光子で、映画の中で彼女は2回行方不明になる。ハイキングのシーンと寮での昼食のシーン。いずれも、女生徒達が三浦を探して大きな声で彼女の名前を呼ぶのだ。ぱっと思いつくだけでも、『風の中の子供』では、子供が行方不明になるので、村中の人が名前を呼びながら探すシーンがあるし、『有りがたうさん』では、朝鮮人の道路工事労働者の女性が、「ありがとさーん」と叫びながらバスを追いかけてくる部分がある。あるいは『みかへりの塔』の、子供達が大声で、伝言を伝えていく演出も、同じモチーフと云っていいだろう。

#備忘で配役等を記す。

・冒頭シーンで信子が訪れるのは芸者の置屋。こゝの女将が叔母さん飯田蝶子。女学校の校長は岡村文子で教頭は森川まさみ。寮に一緒にいる教師は高松栄子。森川は、他の若い先生達と比べても綺麗なので、教頭っぽくない。三浦光子の母親(継母)は吉川満子。父親は奈良真養。奈良は本作でもとても良い役。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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