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[コメント] 宗方姉妹(1950/日)

小津映画は最初期のサイレント時代から「アクション繋ぎ」がもう殆ど完璧なのだが、この映画では屋外の人物のロングショットからミディアムへ切り換えるカッティングで息を呑むようなアクション繋ぎを見ることができる。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 普通、小津のアクション繋ぎは一つのシーンを継続した滑らかな時間の流れで再現する目的、つまり、リアリズムの一手段として語られることが多いけれども、これほどの拘りは尋常じゃないだろう。本当にアクション繋ぎという技法こそ「映画らしさ」だと考えていたのではないか、と思う。

 さて、小津映画は日常を淡々と描いた物静かな映画だという認識が一般だが、勿論それも間違っている訳ではないが、一方で登場人物の情動の昂ぶりを激しい暴力で描いてもいる。思いつくままに列挙してみても『生まれてはみたけれど』『出来ごごろ』『浮草物語』『風の中の牝鶏』『早春』等で親から子、子から親、男から女、女から男に対しての激しい打擲シーンが存在する。そう、小津映画はジャック・ベッケルの映画と同じく「ビンタの映画」と云うこともできる。全体の基調が静謐な中で唐突に平手打ちが登場するのだから余計にその激昂ぶりが際立って見るものに迫るのだが、中でもこの『宗方姉妹』の山村聡から田中絹代へ対して行われる情け容赦の無い平手打ちは見る者の度肝を抜くだろう。なんという過剰さ。この過剰さこそ映画なのだ。また、過剰であるということで云えば、山村聡の徹底的なダメ男ぶりも尋常じゃない。最後には更正するのだろうとずっと思いながら見ていたのだが、最後の最後まで情けないダメ男として死んでいくこの人物は小津映画の中でも日本映画史の中でも突出しているのではないか。

 ただし、この映画の高峰秀子のコメディ演技には違和感がある。彼女がもう少し抑えて演じていれば(演出されていれば)、『早春』『東京暮色』級の傑作になっていたのにと惜しまれる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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