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[コメント] チェンジリング(2008/米)

本当にすべてのシーンが驚きの連続、ハッとさせるディレクションに満ちている。端役の演者においてさえ、所作、表情、台詞の間合い等がほとんど完璧にコントロールされていると感じる。或いはプロットの連携においても見事に統制の取れた演出だ。イーストウッドは前人未踏の域、人類史上最高の映画監督の位置に近付きつつある。
ゑぎ

 本作がオスカーからアンジェリーナ・ジョリートム・スターンら一部を除いて無視されたのは、こゝまでLAPDを馬鹿にしたからだろうか。全く徹底したリバタリアニズムの表明なのだが、まあちょっとやり過ぎの感もあり、LAPDや精神病院の描き方は単純化され過ぎている、ということも指摘しておかねばならないだろう。例えば無抵抗の犯罪者達をマシンガンで撃ち殺すイメージ・シーン(フラッシュバック)に違和感を覚えないか。或いはジョン・マルコヴィッチのキャラクター造形について言っても、私は登場シーンを見た途端、余りに極端な物云いなので、てっきり「LAPDこき下ろし」とバランスを取るために配置された、偽善者の牧師として描かれるのだろうと思ってしまった。

 ただ、これらのある種類型化された作劇上の「幼さ」に抗して、イーストウッドのディレクションは途方もなく「大人」である。例えばLAPDの警部についても、精神病院の医師についてもその演技演出の充実は驚くべき達成度だ。いや大袈裟な物云いでなくすべての登場人物において、いや画面の果ての果てまでも、演出家の聡明さが定着しているように思えるのだ。本作も例によって決して全方位から称揚される映画ではないだろうが、フィルムに定着したイーストウッドの聡明さがフィルムを愛する全ての人を圧倒するだろう。本作のこの圧倒感は彼のフィルモグラフィーの中でも突出している。

#と書いた途端にイーストウッドならこれぐらい当たり前、と書き換えたくなるが。:-)

(評価:★5)

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