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[コメント] 女咲かせます(1987/日)

これは、森崎東作品の中でも一二を争う傑作じゃないか。結城昌治「白昼堂々」の映画化。1968年の野村芳太郎版も面白い映画だったが、しかし、イメージが全然違う。映画を見る快楽の度合が、全然違うのだ。
ゑぎ

 何よりも、本作の松坂慶子は最高だ。美しいし可愛いし、身体のキレもある。冒頭の長崎のシーン。松坂は、登場まもなく、デパートで万引きした女子高生を投げ飛ばす。これに驚いていると、フェリーが埠頭から離れる寸前に飛び移る、というアクションを見せるのだ。こんなアクションを演じた女優って、他にあるだろうか?いや、見せ方が見事の一言なのだ。松坂から離れるが、女を見ると自分の女房だと思い込む平田満が、埠頭から海に落ちるカットも最高。こんな見せ方、他にある?

 実は松坂も泥棒で、万引き常習犯なのだ。足を洗うため、最後の大仕事に銀座のデパートの売上金を強奪しようとする。仲間には長崎の高島炭鉱から呼び寄せた田中邦衛や平田満、梅津栄草野大悟らがいる。東京の松坂の住居は、質屋のオバサン清川虹子の家。二階に下宿しているのが役所広司で、チェロ奏者なのだが、松坂は、役所に惚れており、彼にストラディバリウスをプレゼントしたくて金が欲しい。しかし、松坂をつける刑事は川谷拓三で、こちらは、松坂に惚れている。また、ターゲットの銀座のデパートには、元泥棒の警備主任、名古屋章もいる。川谷の、惚れた弱みで逡巡するキャラもいいが、名古屋の、あたふた演技が実に上手い。また、決行前の宴会場面での、酔った清川の余興、花魁道中が笑わせる。トイレットペーパー数本を頭に、足は高下駄の代わりに風呂の椅子か?脇息か?

 肝心のデパートでの強盗場面も、なかなか良く見せるのだ。エレベータの上げ下げ、昇降をコントロールする場面がドキドキさせる。そして、本作の最も良いシーンは、決行後の逃走中、東京駅の新幹線ホームで弁当を食べる松坂のシーンだろう。この松坂には泣ける。また、このシーンの、後景のピントが外れたところに、川谷がずっと映っている構図も抜群の効果がある。そしてそして、ラストは高島炭鉱のボタ山のロングカット。サンサーンスの「白鳥」の演奏。このラストの満足度も高い。これは再評価されるべき傑作だ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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