コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 蜂の巣の子供たち(1948/日)

ロッセリーニも、デ・シーカも日本ではまだ公開されていない時期に清水宏はこれを作っていたのだ。このような映画を作ったことは、ワールドレベルで偉業だろう。
ゑぎ

 下関駅。貨物用エレベータが地階から上がってくる。中に少年が一人乗っている。画面奥の駅敷地内(?)を、子供たちが手前へ駈けてくる。あゝ清水宏らしい、縦構図の演出だ。

 一人の復員者の男と一人の引揚者の女と十人ぐらいの浮浪児達が、下関から大阪まで旅をする映画。道の映画作家による、真正のロード・ムービーだ。途中、山口の錦帯橋、広島市街、四国での森林伐採、神戸港といった印象深いシーンを経て、大阪柏原(高井田)の修徳学院(みかえりの塔)へ至る。

 まずは、下関駅で主要登場人物が出会うプロットがあり、復員者島村と子供達とのやりとりが描かれ、こゝに子供達が叔父貴と呼ぶ肢体不自由者(片足)の男や、引揚者の「おねえちゃん」がからむ。島村がパンを、まるのまゝ子供にあげると、子供は叔父貴に巻き上げられ、売り物にしないといけない、といった描写が面白い。子供達は、崩れた(割った)パンを欲しがるのだ。

 下関で官憲による浮浪児狩りがあり、皆散り散りに逃げた後、いよいよ道のシーンになる。こゝから、当時の美しい瀬戸内地方の風景がバックになる。機関車が走るカットも何度もあるし、背景にキラキラした瀬戸内海が映り込むカットもある。このあたりの牧歌的な描写が、清水宏の真骨頂だろう。ただ、最も胸を打つ場面として私は次の二つを挙げたい。一つは、焼け野原になった広島市街を見下ろせる高台の墓地で「おねえちゃん」と別れる場面。階段上で見送る彼女のロングショットの見せ方がいい。もう一つは、皆で四国へ伐採の仕事で渡った後、病気の仲間に海を見せてやるために、山上まで負ぶって上るシーンだ。こゝの辛いほどの執拗なカッティングには心揺さぶられる。いずれも、ボルネオからの引き揚げの際に、船でお母さんを亡くしたという少年がトリガーになる。

 ラストは懐かしい『みかへりの塔』のロケーションで、想像以上の(現実離れした)大掛かりなモブシーンと歓喜の表現が現出する。いや、ワザとらしくても現実離れしていても、清水宏らしい素直で誠実な帰結だろう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。