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[コメント] 兄いもうと(1936/日)

成瀬版と比べても甲乙付けがたい傑作だ。タイトルの後、主要な配役がバストショットで紹介されるのだが、最初に竹久千恵子がバスの中で煙草を吸うバストショットが来る。このカットが実に格好良く、もうこゝで既に心を掴まれてしまう。
ゑぎ

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 実質的なファーストカットは川人足を映してクレーン上昇移動。このシーンの川仕事の描き方もいちいち感心する。殆どの場面の舞台となる、土手の下の家をはじめロケーションと美術も素晴らしい。ロケーションの高低を活かしたダイナミックな画面が随所にある。また、俯瞰・仰角、前進・後退移動、横移動を次々と繰り出す流麗かつ縦横無尽なカメラワーク。後半、バスの中の竹久千恵子が妹(さん)−堀越節子を見止めてから、二人で家まで歩くシークェンスが際立つ。

 実を言うと私は竹久千恵子目当てで見はじめたのだが、彼女が横臥して登場するカットのインパクトは相当なもので、こゝから足や足の裏をカッティングするセンスもとてもいい。兄の丸山定夫と罵倒し合う修羅場の演技の強烈さでは成瀬版の京マチ子に軍配を上げるが、艶っぽさでは良い勝負をしていて大満足。もっとも本作のこの修羅場のシーンでも私は涙が止まらなくなった。

 確かに音楽が鳴りっぱなしなところは減点かも知れないが、シューベルトやモーツァルト、ラフマニノフ等のクラシック音楽を品良く編曲しており、それほど厭味じゃない使い方だ。

 成瀬版であった下の妹(さん)−久我美子の恋愛沙汰−堀雄二の存在は本作にはなし。この点は成瀬版に比べて少々寂しいが、しかし、逆に竹久千恵子を中心にしたプロット展開が引き締まり、無駄のない求心力のある映画になっている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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