[コメント] 煙突の見える場所(1953/日)
非常に複雑かつ豊かな映画だ。タイトルが暗示する通り類まれなるロケーションの映画であり同時に音−ノイズの映画でもある。リズムのいいテーマ曲も印象深いが法華経の念仏、ラジオ、赤ん坊の声などオフスクリーンの音が氾濫する。高峰秀子の仕事が商店街の街頭放送のアナウンサーという音を作る仕事をしていることも象徴的だ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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また、五所平之助の演出も「さすがサイレント期からの大監督」と思わせる充実ぶりだ。例えば、まず上げるべきは田中絹代の演技・演出だろう。もともと田中絹代という人はどの映画を見ても違う発見のある人だが、本作の田中はいつもと全く違う独特のキャラクタリゼーションだと思う。単に庶民的というよりも顔の表情がよく動く。それは驚くほどだ。また、田中の夫役の上原謙も彼らしい情けなさが炸裂して嬉しくなる。田中が川に入水しようとするシーンがいい。下宿人の高峰秀子と芥川比呂志の関係性もたまらない。そして、映画の後半になって田中春男、花井蘭子、関千恵子(なかなか可愛い)らのキャラクターが収斂していくのだが、これが図太い演出で見事なのだ。田中が花井にしばかれるシーンは笑ってしまう。この映画、結構笑える映画なのだ。ラスト近く、花井が家に乗り込んで来るシーンは傑出している。関千恵子が高峰を訪ねており、この2階のやりとりもおかしいが、花井の啖呵がいい。花井が飛び出した家の表のカットで下駄の鼻緒が切れる演出もいい。この後、関千恵子と二人歩く演出は何だこれ!全く素晴 らしい。
主人公2人のオーラスは、上原がカレンダーをちらっと見て、田中の耳に囁くと田中が恥ずかしがる、という演出。『静かなる男』じゃないか!
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