[コメント] 弥太郎笠(1960/日)
特に祭り(盆踊り)のセットやモブシーンの物量でスケールダウンを感じる。また、前作の爆発的な殺陣の運動や、人物を回転させる(回らせたり振り返らせたりする)演出へのこだわりが、ラストの立ち回りぐらいにしかなく、希薄になっている。それに、鶴田浩二が度々劇中で唄った部分も割愛されているのが寂しい。
ただし、祭りの提灯に書かれた文句でプロットを繋いでいく演出の多用は、本作の粋な部分だろう。ヒロインの丘さとみは、岸とはまた違った、しっとりとした可憐さがあり、これもいい。中盤、旅に出ていた弥太郎−錦之助が帰ってきて、悪女役の日高澄子をおっぱらい、丘と二人っきりになるシーンが本作の最も良いシーンだ。「弥太郎さんがいじめます」と云う、このディレクション。チャンバラシーンも勿論いいが、マキノの素晴らしさは、やっぱり男女の機微の演出だ。あと、主要登場人物で前作と全く同じ役をやっているのが、大好きな田中春男で、彼の役も芝居のしがいのある見せ場があり嬉しくなる。
#前作とのキャストの引き継ぎを中心に備忘を記す。
・弥太郎が旗本だった頃の友人で、八州見回り役は高田浩吉から東千代之介へ。
・丘さとみ(岸恵子)の父親、松井田の親分は澤村國太郎から大河内伝次郎へ。
・松井田から、大八へ鞍替えする子分は阿部九洲男から加賀邦男へ。
・悪女お牧は、前作では村田知英子だった。
・弥太郎が旅の途中で知り合う博打好きのヤクザ者は河津清三郎から千秋実へ。本作の千秋実にはラスト近くに「裏切ったんじゃない、表返ったんだい!」という台詞がある。最近見た『浪人街』(1957年版)では河津に同じ台詞があった。(もともと1928年版『浪人街』で既にある有名な台詞とのことです。)
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