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[コメント] 愛、アムール(2012/仏=独=オーストリア)

面白かった。スリリングだった。ハネケの演出の緊密さ厳格さもあって、一瞬も弛緩しない強度の緊張を持って見た。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 実は村瀬幸子の方がもっと凄かったのではないか、という思いも湧き起こったが(『人間の約束』のことです)、でも、本作のエマニュエル・リヴァの気品ある可愛らしいお婆さんぶりに私はかなり参ってしまった。「イメージが壊れるようなことを云わないで。」という科白から始まる会話。食事の最中に昔のアルバムを見るシーン。そして、予告編でも使われていたリヴァがシューベルトの即興曲を弾くフラッシュ・バック(というかトランティニャンの幻想)。もうたまらない。また、ダリウス・コンジの光の扱い。画面外の窓からの自然光の取り入れや画面内の電球色のランプを使った柔らかな光の扱いに陶然となった。

 ただ、それでも私はこの映画への不満は大きい。それは冒頭と末尾にある。まず、リヴァが朝食時に無反応となるシーン。こゝでトランティニャンが水道の水を出しっぱなしにする演出は、人によっては上手い、と思う人もいるだろうが、私にはかなり作り物臭い嫌らしい演出に思える。トランティニャンの気の動顛ぶりを描いているのか?或いは彼もボケてきているのか?と観客に思わせておいて、オフの水音を止めることで映っていないリヴァの行動を示す訳だが、水を出しっぱなしにして動き回るトランティニャンの描写は相当違和感のあるもので、私は、このように水音を機能させたいためだけに、こんな違和感のある演出をやったのか、という不誠実なもの(いやな騙され方というか)を感じてしまった。そしてエンディングへの話の運び、枕を押し付ける展開は私は決定的にあっけな過ぎると思う。その直前のサマーキャンプでジフテリアになる昔話も面白くない。まあ、このあたりもワザとつまらなくしている感があるが、さらにユペールが整理されたアパー トにやってくるエンディングは蛇足だ。これなら、冒頭の水道と呼応するように流し台で皿洗いをするリヴァの登場から、二人で散歩に出かける流れで閉じてしまった方が良かったのではないかと思ってしまう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)煽尼采 ぽんしゅう[*]

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