[コメント] クラッシュ・バイ・ナイト(1952/米)
次に、漁船で作業するポール・ダグラスとキース・アンデス。そして、汽車が通過したあとの線路の向こうに、女が歩くカット。これがヒロインのバーバラ・スタンウィックの登場カットだ。
人物の関係性を記述すると、ダグラスは船主で、アンデスはダグラスに雇われている。マリリン・モンローとアンデスは恋人同士。スタンウィックはアンデスの姉で、10年ぶりに、この港町に帰って来た、という設定だ。当然ながら(?)、ダグラスはスタンウィックにメロメロになる。
ダグラスとスタンウィックが、映画を見に行く場面。上映途中「ここから見た」と云って、席を立つスタンウィック(こういう見方が懐かしい)。ダグラスはその足で、友達の映写技師を彼女に紹介する。これがロバート・ライアンだ。いかにもお人好しのダグラスに対して、ライアンはもう登場から悪の匂いをプンプンさせる。例えば「映画の中の女優を切り刻みたい」だとか、サディスティックな科白を笑いながら云うのだ。また、特に前半のスタンウィックの科白は、彼女の人間洞察力を感じさせる、ほとんどが冗句、警句のようなもので、ライアンとスタンウィックの二人の場面は、ハードボイルドのムードが横溢する。
さて、本作のラングの演出において、元々舞台劇の映画化ということもあるのだろうが、屋内での人物の出し入れの見せ場が何度もある。まず特筆すべきは、海岸の側のレストランバーのシーン。最初は店の前の浜辺。モンローが水着姿で海の方から駈けてきて、耳に水が入ったと云う。アンデスが足を持って逆立ちさせる。それを店のテラスから見るライアン。店内のテーブル席にはダグラスがいる。こゝから始まる店員も含めた人物の出し入れの演出には唸った。あるいは、ダグラスとスタンウィックの結婚パーティのシーンも同様に凄い。こちらの方が、沢山の人がいる濃密なモブシーンで、普通に吃驚できる画面かも知れない。あとは、ダグラスとスタンウィックが結婚して一年ぐらい後の、暑い夜の場面。部屋の中を、スリップ姿のスタンウィックがウロウロする。泥酔したライアンがやって来て眠ってしまう、というところから始まり、翌朝を含めて、多くの人物(ダグラスは勿論、ダグラスのお父さんやモンローら)が出たり入ったり、というシーケンスになるのだ。この朝に、誰もいなくなったキッチンで、ライアンがスタンウィックを抱きしめ、結局彼女も応じてしまう。
というワケで、終盤はライアンとスタンウィックの駆け落ちがどう成立するか、ダグラスはどう対処するか、というプロットになるのだが、映写室での男二人の格闘シーンなどもあるが、結局、ほとんど何の犯罪も描くことなく、収束させてしまう、という点が、逆に本作の凄みだろう。にも関わらず、全編、完全に犯罪映画のムードなのである。やっぱりラングは凄い。
#備忘でその他配役を少し記述しておきます。
・ダグラスのお父さんはシルビオ・ミンチオッティという人。この人は初めて意識したが、『マーティ』のお母さん、エスター・ミンチオッティと夫婦らしい。
・ダグラスの叔父さんは、J・キャロル・ネイシュだ。上で書くことができなかったが、各場面に何度も出入りする。ちょっと臭い造型で、一番演劇的かも。
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