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[コメント] やさしい人(2013/仏)

たまらないな、この映画。本作も名演技と云っていい犬が登場する犬の映画であり、そしてなんといっても寒々とした冬の映画だ。雪降る夜の街角、雪の山荘、樹氷と湖の風景。特に後半の山荘まわりの画面、その冷え冷えとした触感がとてもいい。
ゑぎ

 一方で登場人物に対するカメラの視点はとても暖かく感じられる演出がなされており、前半の恋愛が成就する幸福感や親子の情愛、そして飼い犬の愛らしさ等で巧妙に寒暖のバランスが取られている。

 また、本作の原題は、舞台となる地名「トネール」であり、それから分かるように、美しいロケーション撮影が印象に残るが、しかし、大部分のシーンは屋内での2人の人物のリバースショットで構成されていて、そのきめ細かさにも驚く。この監督はかなり「編集の人」ではないかと思ってしまった。編集の良さは、基本的なカット繋ぎの安定さだけでなく、シーン構成といったレベルでも、よく感じられる。例えば、冒頭、父親がサイクリングウェアを着て、眠っている主人公を起こしにくるが、これがエンディングではしっかりと伏線として、画面で回収される、といった部分。或いは、ワイン醸造場で試飲する屋内シーンの次に、夜の雪降る街角を繋ぐ、といった観客が誰も予期することができないようなカッティングだとか、或いは、ダンス教室の床におどけて倒れる主人公の次に、街路の雪に滑る主人公のカットを繋げるといったマッチカットなどなど。ちょっと処女長編とは思えない成熟ぶり。それでいて瑞々しさも十分持ち合わせていて、喩えが良いか分からないが、初期シャブロルと比肩するレベルの才能ではなかろうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)赤い戦車[*]

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