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[コメント] タレンタイム〜優しい歌(2009/マレーシア)

学校の講堂の電灯がつくカット。続いて学校内の空ショットで始まる。なんか『クーリンチェ少年殺人事件』を思い出してしまう。
ゑぎ

 試験風景。サイコロを振って答案用紙にマークするハフィズ。それを見る中国系の男子。これが、ちょっと後のシーンで、当てずっぽうで回答している訳ではなかったことがわかる、という構成には唸る。

 ほとんど二台カメラでアクション繋ぎのカッティングだ。この監督も、アクション繋ぎこそ映画、と思っていたのだろう。病院の母親に、ハフィズがキスするカットでやるのは驚いた。二台カメラで繋ぐ関係もあり、切り返しは少ない。いつ切り返すのか、気になって見ていたが、抗がん剤治療で嘔吐するお母さんと、車椅子の男性との会話シーンまでなし。しかも、ツーショットでの切り返しだ。ヒロインのムルーが、最初のリハーサルで「エンジェル」という歌を唄い、送迎係のマヘシユが講堂に入って来て、お互いを見る場面も、フルショットに近いが、切り返しと云えるだろう。ムルーのこの歌唱はとても心地いい。

 マヘシュは聾唖者。聞こえないだけでなく、喋ることもない。俯瞰の後退移動で示される突き放しの表現が印象的だ。ヒンズー教の葬送の儀式も俯瞰。この距離の感覚も侮れない。マヘシュの家はヒンズーだが、その他の登場人物達は(ムルーもハフィズも)、ほとんどムスリムで、宗教的な対立も、登場人物と観客に、複雑な感情を呼び起こす。

 また、ムルーの家には中国系だが、これもムスリムのメイリンというメイドがいるのだが、彼女の存在もプロットに深みを与える。ドビュッシーの「月の光」の出し方なんて本当に上手い。傑作。

(評価:★4)

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