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[コメント] ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書(2018/米)

これはもう圧倒的な、視点の高低のコントロールを実現した映画だ。複数の人物の、座る、立つという関係のディレクションと、カメラ位置の高低のコントロールにしびれる。このあたりの演出の充実度は、スピルバーグの中でも、突出しているのではないだろうか。
ゑぎ

 例えば顕著なのは、全編通じて、メリル・ストリープは座っており、その相手は、立った状態で会話するシーンがかなり多い。まず、映画序盤の投資家たちとの会議の後、消沈したストリープが、机の椅子に座り、正対してフリッツ−トレイシー・レッツが、机の前で立って会話するシーンで、切り返しのカメラの視点(俯瞰・仰角)の高低差に驚いてしまった。つまり、なかなかこゝまで高低差をつけたリバースショットというのは、普通見ないのだ。このような、ストリープを俯瞰ぎみで撮ったカットと、その会話相手を仰角ぎみで撮ったカットの切り返しが、この後も何度も出てくる。相手で云うと、勿論、トム・ハンクスとの間が一番多いのだが、娘のアリソン・ブリーとのシーンでも度々ある。ストリープは会話相手にも見下げられると共に、カメラの視点でも見下げられるということだ。

 そして、ストリープが最も重要な決断をするシーン、輪転機をスタートさせるかどうかを決定する場面も特徴的だ。こゝでは、まず、ストリープをはじめ、ハンクスやトレイシー・レッツやブラッドリー・ウィットフォードら、ポスト社の幹部は皆立っており、カメラは、ほゞ人物の頭の位置にあって、顔を水平に映しているのだが、ストリープが決断し、部屋を退出した後に、部屋に残ってあっけにとられる男達を、カメラは上昇移動で俯瞰するのである。男達はカメラによって見下げられる、という訳だ。

 さて、開巻は、ベトナムでの夜の軍事行動のシーンで始まる。この銃撃戦、わりかしよく撮れているとは思ったが、このシーンだけで、負け戦の象徴とするのは少々弱いとも感じた。

 マシュー・リス(エルズバーグ)に接触する記者ボブ・オデンカーク(バグディキアン)の公衆電話のシーン(小銭をぶちまける!)なんかも楽しく、この人はかなりのもうけ役だとも思う。しかし、このシーンの公衆電話の左上の反射面に、オデンカークの顔を映す、というような器用なカットを挿入したりする。他にも、スピルバーグらしく、車のバックミラーに人物の顔を映しこむ演出が相変わらず多かったりするのだが、本作においては、こういった無駄に器用なカットは、私には、ノイジーに感じられた。

#ハンクスが自宅に帰ってくると、その妻・サラ・ポールソンはソファでうたた寝をしている、というシーン。付けっ放しにされているテレビから、ウィドマークの声が聞こえる。ダッシンの『街の野獣』だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)KEI[*] トシ disjunctive[*] おーい粗茶[*] Orpheus ペペロンチーノ[*] 赤い戦車

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