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[コメント] 岬の兄妹(2018/日)

冒頭から第一感、ずいぶんと紋切型の表現が続くな、と思ったが、確かに全編に亘って、特に新しさを志向することなく、王道のスペクタクルを目指しているように感じられた。
ゑぎ

 南京錠とドアのカットから始まる手持ちのシェイキーな移動撮影。クレジットバックはきちんと構図を意識した堤防のカットで、監督名のインポーズ時にカモメを出現させる。そして、タイトル文字が赤文字でデカデカと出る。よく考えられているが、古めかしくもある。

 古めかしいというか、王道、ということで云うと、題材からの要請という面はあるが、ドアと窓がいっぱい使われている。上に書いた、ファーストカットが既にそうだが、ドアや窓を挟んだ2つの空間が、抜き差しならない異空間である、という演出がいっぱいあるのだ。例えば、兄妹の居所のドアや窓で云うと、取り立て屋や電力会社の訪問者の場面もそうだが、特に、妹・和田光沙の初仕事(二人組のヤクザとのシーン)の後、マクドで買ってきたものを食べまくる部分に続いて、兄・松浦祐也が、なんだか開き直って、窓に貼っていた段ボールを外し、外光を入れる場面なんて象徴的だと思う。

 あるいは、訪問先の家・部屋(トラックも)の戸やドアはことごとく、兄が入ることのできない境界線となるのだが、高校のプール横の、更衣室(?)の場面で使われる窓外からのカット(すりガラスの向こうで手をつくのが見えるカット)なんかも見事だ。

 そして、馴染みになり、度々呼ばれる中村祐太郎の部屋だけが、妹を連れ帰えるために、兄が侵入することを許されるのだが(というか、侵入せざるをえない状況となりドキドキするのだが)、だからこそ、ラスト近くでの、この部屋のドアと窓の扱いが余計に感慨深く思われる。

 ただし、違和感のある演出もいくつかある。例えば、二人組のヤクザとのホテルのシーン(『時計じかけのオレンジ』みたい)で使われるズーミング(わざとらしいズームは全編でこゝだけだが)。高校のプールの場面は、その導入部からして既に汚らしい画面でイヤ。(でも、だから余計に「海の匂い」のクダリの清涼感との落差が際立つけれど。)あるいは、高校のプールの場面もそうなのだが、花を持って道を歩くお爺さんのカットが唐突に挿入される、だとか、後半、車を運転する造船所の社長(?)のカットがいきなり繋がれる、といったシーン繋ぎも、この監督の好みなんだろうが、好悪が分かれるところだろう。いずれにしても、とても自覚的によく考えられていることは確かだし、力強い造型であることも間違いない。

#私は「チェンジいや」が一番クスリとさせられた。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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