[コメント] 多十郎殉愛記(2019/日)
前半の、ゆったりとした小さな寄りのリズムがとてもいい。勿論、人物のカットでもこれをやるが、その効果が顕著に出ているのが静物のカットで、夏蜜柑への寄りや、池のアヤメ(菖蒲?)の花のカットなどだ。
これらは、ドリー(もしくはステディカム)による移動撮影なのか、それともズーミングなのか、実のところ正解は分からないが、少なくも、明らさまなズーミングではない、最大限、移動撮影に見えるように配慮したカメラワークだ。(十中八九移動撮影ですが)
さて、画面造型の特徴としてもう一つ。家財や植木等で画面の一部(左右等)をマスキングし、ローキーが際立つように撮影された屋内シーンが多数あることをあげることができるだろう。このあたりの時代劇らしい美術装置と撮影も見どころだ。屋内ではないが、竹林の中の殺陣シーンなんかも、画面の一部を隠す造型ということでは共通している。
また、これも特に前半がそうだが、多部未華子へのディレクションが悉く良く、長屋の軒先に登場した場面から鮮烈な美しさだ。少々近現代的な所作言動に過ぎるように思える部分もあるが、例えば、酒場のシーンで高良健吾の背中にしがみつくディレクションは出色で、客たちが唖然として静まり返る、というのは幾分演劇的ではあるのだが、現実らしさを超えた映画らしい「驚き」を感じさせてくれる部分だ。
後半は見廻組や京都奉行所の登場人物も増え、スケールは大きくなるが、雑駁かつ大仰な芝居も散見し始める。これが中島貞夫の限界、という感もあるが、それにしても、役者達は、小さな役までよくディレクションされているし、ラストまでテンションは弛緩しない。クライマックスで敵役をつとめる寺島進も見事な貫禄で、それは彼のバストショットがよく撮れているからでもある。
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