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[コメント] わたしは光をにぎっている(2019/日)

湖の桟橋。松本穂香の横顔のバストショットから始まる。オフで樫山文枝の声。この後、引き過ぎと思えるほどのロングショット、フルショットが続く。特に、屋内シーンの引き具合が普通でなく、まるで『愛怨峡』の前半部分でも目指しているのかと思う。
ゑぎ

 考えると本作も『愛怨峡』も信州の旅館を舞台として始まるのだ。結局、お祖母さんの樫山は、声で分かるのみ、画面では誰だか判別できない。

 いや、これが良くないか、と云うと、非常にいいのだ。本編の大部分は、東京の下町(葛飾区立石あたり)の銭湯と、その周辺を舞台とし、再開発で取り壊される(立ち退かされる、あるいは閉店を余儀なくされる)街の人々の哀歓が描かれるのだが、この題材に良くマッチした演出−距離とリズムだと思う。ときに優しく見つめ、ときに厳しく突き放す。

 序盤と終盤に挿入される(ドローン撮影と思しき)野尻湖の大俯瞰も美しい。映画中映画(スマホ動画?8ミリ映画?)の体(てい)で挿入される、商店街の人々や猥雑な街並みを繋げる画面もいい。ミニシアターの映写室に住む男(渡辺大知)の登場する、映画愛の映画でもある。「一年後」と字幕の出た後のエピローグ、そのラストカットも納得性が高い。美しい日本映画だ。

#本作の東京下町のミニシアターは、横浜黄金町(若葉町)の映画館ですね。これもカッティングの魔法。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)水那岐[*]

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