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[コメント] ペイン・アンド・グローリー(2020/スペイン)

全編、べらぼうに美しい色遣い。アントニオ・バンデラスの家の内装や彼の衣服だとか、あるいは子供時代のシーンの海辺の白い町や、白い洞窟といった画面の美しさは、まあよくある感じではある。
ゑぎ

 しかし、病院内の壁に樹々が描かれている(プリントされている?)カットには、衝撃を受けた。変な云い回しかも知れないが、射すくめられたような心持ちがした。

 あと感心したのは、序盤の、30歳ぐらいからの病歴を説明するバンデラスのモノローグの部分。画面はCGっぽい人体のアニメーションが映るのだが、これが良く出来た映像で、見ていて実に楽しがった。また終盤では、若き日に3年一緒に暮らしていたというフェデリコとの再会のシーケンスも感慨深い。こゝでフェデリコ=レオナルド・スバラグリアの回想をフラッシュバックなんかで見せない、という選択もいいと思うし、何よりも、ジジイ2人が、ずっと目に涙を溜めて会話する切り返しが、優しくて感動的だ。

《以下、人によってネタバレと思われるかもしれないので、ご注意を!》

 とは云え、実を云うと、色遣いは素晴らしい撮影だが、もうちょっと引いて撮ってくれたらな、と思い続けながら見ていたのだ。バストショットは少なく、寄り気味の顔アップが案外多い。特にバンデラスの顔カットに飽きが来る。なので良い映画だが、アルモドバルの最良作とまではいかないな、と考えていたのだが、いや、ラストで引っくり返った。子供時代のシーン、ペネロペ・クルス演じる母親との場面や修理工の青年との場面の位置付けが示され、冒頭から見せられてたものが何だったのか、種明かしされるのだ。人によっては、「ふーん」で終わるのかも知れないが、私は吃驚仰天した。なんという構成。よくあるメタな現実の異化なんかではない。映画がカッティングの魔法であることを見事に表したオチではないか。という訳で、一瞬、最高点を付けてもいい、という思いに換わったのだが、よく考えると、こうなると余計に、老女になった母親の回想シーンは、無くても良かったのではないか、という思いが強くなってくる。

#一人芝居の中の引用で『草原の輝き』『ナイアガラ』の水の場面。また、プールで、ゆっくりと背泳をする二人の少女の映像が出て来る。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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