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[コメント] MOTHER マザー(2020/日)

坂の上から住宅街を撮ったカット。ティルトして坂道を俯瞰する。女性が乗った自転車が降りていく。向こうから子供。このファーストカット、力強くていい。子供の膝に血。ぺろりと舐めて笑う長澤。出血の理由は一顧だにされない。全編を象徴する良い出だしだ。
ゑぎ

 違和感を感じるシーン(勿論、モラル的な話ではなく、演出・画面造型的なテクニカルな話)も多いので、傑作、佳作と云うべき作品ではないと思うが、しかし、力のある映画だとは思う。違和感の例を挙げておくと、例えば、皆川猿時仲野太賀の扱い。潔く退場させるのは良いが、再登場するとか、もうちょっと、絡んでもいいんじゃないか、とか感じてしまう。また、最たる例が夏帆への演出で、ラストシーンの彼女の所作は、一般的な感覚で云えば、いくらなんでも納得性を欠くだろう。なので、もう少し彼女の心象が観客に伝わるよう、丁寧に演出しておくべきではなかったか、と思うのだが、しかし、こゝが考えどころで、この唐突な所作が映画的に面白い、とも云えるのだ。というのも、夏帆と長澤まさみとの出会いのシーンでも、相似する所作が描かれており、ある種の伏線回収的な反復になっている。また、夏帆の子供時代の述懐も想起すると、夏帆と長澤の関係も、共依存のモチーフなのか、というような、映画的な二重構造の、複雑な感情も立ち上がって来る。こういったところが、力のある作品、という意味でもあるのだ。

(評価:★3)

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