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[コメント] のぼる小寺さん(2020/日)

これはなかなかの佳作。引いた画がいい。本作においては、のぼる小寺さんを見つめる視点の、ちょっと引いたショットが(それは登場人物のミタメ/主観ショットであれ、純粋なカメラアイ/客観ショットであれ)、重要だと指摘できるが、
ゑぎ

 しかし、ボルタリング場面以外の、例えば、人物の会話シーンのカットバック(切り返し)においても、ほゞウエストショットかニーショットで、アップがほとんどない。こういった画角の選択も映画的なのだ。被写体とカメラの距離の選択は、登場人物同士の心持ちを表しているし、また同時に、被写体に対する作り手の感情の表出、あるいは、被写体に対する観客の感情を操作する方法でもある。

 また、小寺さんからのミタメのショット(主観ショット)が、ほゞ使われていない(少なくも私の記憶にはない)、ということも指摘できるのだが、これをさらに補強する場面が、夏は静かだと云う小寺さんのシーンだ。ミンミンゼミの蝉時雨と小寺さんのカット。こゝで長い間を取るが、普通なら、無音の処理を入れるところを、科白で(科白だけで)「音が消えた」と言わせるのだ。これには唸ってしまった。音響においても、小寺さんの主観は表現しないのだ。こういう表現でも、確固とした自己を持つ(不思議ちゃんとも云う)小寺さんから、影響を受ける人々を描いた映画として徹底していると云えるだろう。あるいは、このシーンがあるからこそ、ラストの小寺さんの、科白で表現しない身振り・振る舞いが感動的である、ということにも繋がっているだろう。

 尚、蝉時雨の場面でもある、元園芸部の跡地(庭)の雑然とした風情がとても良く、ラストも含めて重要な場面でこゝが舞台として使われるのも効果的だ。

 あと、無粋と思いながらも、ちょっと違和感のあった部分を2点あげておきます。一つ目は、小寺さん(工藤遥)が、河原で梨乃(吉川愛)からネイルを塗ってもらう部分。こゝは指一本ぐらいがちょうどいい時間感覚だと思った。全体に、梨乃のキャラ設定は中途半端。二つ目は文化祭前夜の準備シーンで、四条(鈴木仁)が、近藤(伊藤健太郎)に抱きつく演出。これは変。こなれてない。

(評価:★4)

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