コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] さがす(2022/日)

力のある映画だ。映画の倫理と現実レベルのそれを切り分けることをしない人には受入れられない作品だとも思われるが、力があることは事実だし、立派なものだと思う。『岬の兄妹』に比べ、演出の洗練も図太さも、随分と増しているだろう。
ゑぎ

 まず、アバンタイトル、リストの「愛の夢」をBGMにして、佐藤二朗が金槌を振り回すスローモーション、その緩やかな前進移動カットで幕を開けるのだが、このカットの位置づけがいいじゃないか。続いて、夜の新今宮の町を、女子中学生−伊東蒼が走る(駅前のドンキと通天閣が見える)横移動カットを繋ぎ、食品ストアのバックルームのシーンとなる。ちなみに店員は北山雅康だ(「とらや」の三平ちゃん。『岬の兄妹』にも出てた)。次に、路上の佐藤と伊東のシーンになるが、伊東が、空き缶を、蹴ると、かなり遠くに引いたロングショットに繋ぐのだ。このオープニングで既に、演出の洗練を感じてしまった。

 また、タイトルインについても記述しておきたい。実は『岬の兄妹』のタイトルの出方は、ちょっと忘れられないものだったので、本作でも、またあのようにデカデカと出るのかと期待していたのだが、とても小さな文字で「さがす」と出た。なのにだ、中盤の映画がギアシフトするタイミング−伊東蒼が島の殺人現場に駈けつけた後、海辺の清水尋也森田望智(ムクドリ)の場面に切り換わるタイミングで、「三カ月前」という文字が画面からはみ出して表示されるのだ。これには笑ってしまったではないか(こういう映画の楽しみ方もあるのですよ)。

 さて、主要キャスト−佐藤、伊東、清水、森田ともに皆かなり面白い造型で、佐藤はともかく、あとの三人は、アクターズディレクションの賜物でしょう。特に清水と森田の一貫性には驚かされるレベルだ。二人とも怪優だと思っていたが本作でそのぶっ飛んだ資質がより顕現したのではないか。こういうとき、出番の少ない方が強烈なことも一般だが、本作も、森田のムクドリがいることで、映画の暗黒面が豊かに(複雑に)なっていると私には思われる。例えば、佐藤が、多目的トイレの中で、車椅子の森田に服を着せる場面なんか、とてもいい。

 ちょっと気になった点を書いておくと、プロットのご都合主義はとりあえず、置いておくとして(私には大して気にならないレべルなので)、空間の見せ方でイマイチかなぁと思う部分がいくつかあった。例えば、佐藤と伊東の住居。部屋が二階にあるということが、後半になって分って驚いた。一階のイメージを持っていたのだ。あるいは、閉鎖された卓球場の内部もそうだ。奥の部屋から何かの音が聞こえるシーンなんかは悪くないが、こゝがどこなのか分かりづらい見せ方だと思う。あと、島の洞窟(ロウソクが沢山ある)なんかもそう。さらに、母親(佐藤の妻)−成嶋瞳子と娘の伊東が全然絡まない(同じ画面に映らない)のもかなりの違和感があった。

 とは云え、随所に散りばめられた力漲る演出が、違和感を吹っ飛ばし、余りある衝撃と満足感をもたらしてくれる映画だと思う。最終盤の、佐藤と伊東による卓球のラリーのシーン(長回しショット)は、日本映画史に残る名場面じゃないか。口をすぼめて、チュボチュボ音を出し、「勝ちや」「なんの勝負や」というやりとりは、佐藤のアドリブじゃないかと思っていたのだが、ラストを見ると、これも、スクリプトに書かれていたのだろうか。真実は分からないが、撮影現場での創意であって欲しいと私は思う。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] おーい粗茶[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。