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[コメント] キューポラのある街(1962/日)

自転車二人乗りで、荷台に座って登場する吉永小百合(ジュン)。終盤、この自転車はジュンのものになる。本作でも、自転車は自由や喜びを象徴する。これも「幸福な自転車の映画」だ。
ゑぎ

 また、何よりも吉永の「顔の映画」であり、純粋に、彼女の表情、視線、目力だけで、何度も涙が溢れ出そうになった。さらに、本作は、「豊かな列車の画面が溢れる映画」だ。公園の向こう、ジュン達の家の裏路地の向こう、河原の鉄橋、街中の画面奥でも列車が走る。どれほど列車待ちをして撮影されたことだろう。ラストの別れの場面では、陸橋から電気機関車のすれ違いを見下ろす素晴らしいカットがある。この後の、ジュンとその弟タカユキが、川口駅へ向かって走っていく姿をクレーン上昇移動で捉えるカットも神懸かった超絶カットだ。

 その他、多くの細部が連携し、ラストのジュンの振る舞いに結実する。本当に豊かな美しい映画だと思う。ジュンがタカユキとビリヤード場へ乗り込んで、借金の話をつける、侠気溢れるシーン。友達の家で勉強を教えるシーンの、2階の窓から川口の風景を映すカットも、唐突にブラームスの四番が流れるという、アッと驚くようなカットだ。吉永が初経をむかえる表現にも瞠目する。堤に寝転がっている吉永の横顔、鉄橋の下の草むらへ走って行き、表情が変わる演出。このような簡潔な繋ぎで全てを表すのだ。

 そして、タカユキと朝鮮人の同級生サンキチのシーンがことごとく面白いのだ。彼らが野外を動き回る様子は、縦構図でよく撮れた画ばかりだ。終盤は、少々教条主義的な嫌らしさも感じるが、しかしそれにしても、全編、周到かつ瑞々しい細部に溢れている。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)水那岐[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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