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[コメント] 巨人伝(1938/日)

本編前に「言い訳」のような、作者・伊丹万作の断り書きが出る。そこには、この仕事に「辟易」したと書かれている。時間と場所の扱いに苦労したと。「レ・ミゼラブル」の脚色、という難しい仕事で、さもありなんとは思うが、「辟易」には驚く。
ゑぎ

 しかし、確かにスムーズなプロット構成とは云い難い、ひっかかりのある出来だ。主人公・大河内伝次郎の変転で、特に二度の流刑(島流し)と逃亡のプロットに、端折り過ぎの感が残る。

 さて、忘れがたい細部を書き留めておこう。まず、冒頭、町長としての大河内のスピーチ中に、新任警官・丸山定夫が科白をかぶせる(同時に喋る)シーンがある。この演出は他にも、英百合子が嘆願中に、丸山に喋らせるシーンがあり、『ヒズ・ガール・フライデイ』よりも前に、伊丹が意識的にやっていたのだと分かる。また、前半では、何と云っても火事場の画面造型が大した迫力。鉄格子のある窓って不思議だったが。大河内は鉄格子を曲げて、逃げ遅れた老人を助ける。

 大河内の養女となる、撮影当時17歳の原節子は中盤になってやっと登場するが、彼女の登場カットは矢張り目の覚めるような鮮烈なカットになっている。ただし、もう一人の若手女優、堤真佐子の方が良い役かも知れない。堤は原の恋人・竜馬(佐山亮)のことを思っている役で、片思いの切なさを体現する。

 そして、最も良いシーンは、ワタクシ的には、大河内の家を訪ねてきた竜馬に、原節子が夜9時に裏の戸を開けておきます、と言った後のシーン、二人が夜、裏庭で落ちあう逢瀬のシーンだ。庭には、モクレンかコブシか、白い花をがいっぱい咲いている。庭の地面にも散った花がたくさん見られる。この花の清らかな美しさとはかなさが、二人の関係や行く末を象徴している、と観客に思わせる画面造型が映画的だ。

(評価:★3)

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