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[コメント] (秘)色情めす市場(1974/日)

通天閣と、トルコ温泉ニュー世界の看板。ズームアウトすると、金網(フェンス)の後ろから撮っていたことがわかる。ちょっと右下へパンとティルトし、ズームインして二人の女。芹明香絵沢萠子
ゑぎ

 絵沢は、かき氷を食べる。次に、階段に座って会話。一人になった芹が階段にもたれる。寺の鐘の音。そこにクレジットが入る。

 あいりん労働センター。港町ブルースを唄うおっさん。芹が町を歩くシーンが何度も挿入される。かつての南海平野線の軌道や飛田駅も映る。芹の部屋の前の廊下のカットが、暗い中、逆光が入って、とてもフォトジェニックだ。

 宮下順子萩原朔美は、どこからか駆け落ちしてきたワケありの男女。でも金が無いので、高橋洋に宮下を売ったようなかっこうになる。高橋は、真珠を埋めていると自慢する。萩原がいなくなる。すると宮下は嫌われたと思う。宮下が高橋に抱かれる場面はとてもエロティックなシーンだ。

 萩原、戻って来るが、高橋からダッチワイフを渡される。ダッチワイフは空気が漏れている。自転車のパンク修理のように、水につけ、穴を見つける。これを持って町を歩く萩原のカットがジョークのように挿まれる。

 京橋の寝屋川辺り(川の向こう、画面左に大阪城が見える)を歩く場面。高橋と宮下の後をつける萩原。荒地の中のレンガの塔のような建物は、現在の大阪ビジネスパークあたりか(いずみホールあたり、との情報あり)。

 全編ほゞモノクロだが、終盤に、5分ぐらいだけ、カラー画面が挿入される。カラーの夕陽が現れ、ガツンと殴られたような感覚になるのだ。バッハの無伴奏チェロ組曲(サラバンド)の劇伴。芹と弟(サネオ)−夢村四郎との情交。芹の裸のカットも、カラーが鮮烈だ。芹の表情は常軌を逸している(それは、こゝだけではなく全編と云っても過言ではないが)。

 鶏を持って歩き回るサネオ。天王寺。大阪城。通天閣の階段を登る。そこに、村田英雄の王将がかゝり、難波、道頓堀なんかのカットが挿入される。通天閣の上のサネオと地上の芹との切り返しはスピーディなズームイン。この演出は目に焼き付く。この後、煙草を吸いながらのセックスと、逆立ちして、煙草を線香の代わりに局部に立てるといった場面も唸ってしまう。

 本作は日本映画史上の傑作と云われることも多い作品だが、その図太さ、力強さは分かるけれど、正直なところ、期待していたほどの突出は、私は感じなかった。期待が大きすぎたのはあるだろう。私が本作の舞台となっている街にある程度なじみがあり、もっと画になる場所もあるんじゃないか、という感覚が残ってしまうのも、その要因か。それに、芹明香という女優がイマイチ好きでなく、芹の母親役の花柳幻舟もそうなのだ。熱演しているのは分かるが。

 (秘)から始まる田中登作品だと『女郎責め地獄』の方がショックを受けた。全然スタイルを異にする二作だが、私の好みのスタイルは、こちらの方なのだ。

(評価:★3)

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