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[コメント] 親切なクムジャさん(2005/韓国)

テーマ性を重視するあまりか、どうも物語に合理性、必然性が足りない。しかし『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』と着実に力は上がっており、これからもパク・チャヌクの新作からは目が離せそうにない。
JKF

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







あらかじめ分かってはいたが、だいぶ前二作とは方向性の違う話であった。とはいえ、監督自身が「復讐三部作」と称していただけあり、リンクする部分があった。結末には触れませんが前二作のネタバレあります。

●誘拐

劇中でクムジャから「いい誘拐」と「悪い誘拐」について語られていた。いい誘拐とは「金持ちから子供を誘拐し、身代金だけふんだくって安全に子供を返してあげる」こと。これなら金持ちから貧乏人に金が回るし、しかも再会の喜びが大きいために家族はそれまで以上に仲良く楽しくやっていけるからいい誘拐だとか。「悪い誘拐」は言うに及ばず。このいい誘拐、『復讐者に憐れみを』で主人公とその恋人が画策し、実行した誘拐である。しかし『復讐者に憐れみを』では誘拐した少女を事故で水死させてしまうことで結果的に「悪い誘拐」となってしまう。ここがあの作品のターニングポイントで、それまで被害者だった主人公が同時に加害者となり、また娘を殺された父親が復讐の鬼へと変貌していき、物語は真の悪のいない復讐と暴力の連鎖の物語になる。一方、本作で描かれるのは同情の余地なき「悪い誘拐」である。身代金を奪い、子供も返さない。『復讐者に憐れみを』では誘拐を行った主人公たちに同情の余地がかなりあったが、こちらは誘拐犯は絶対悪として描かれ、彼を殺すことがクムジャの目的であった。

それから『オールド・ボーイ』も始まりは誘拐であることを忘れてはならない。こっちは誘拐&監禁ではあるが、主人公が誘拐され、愛娘と引き離されての十五年の監禁生活の被害者となることで復讐の物語が動き出した。本作のクムジャの十三年の服役で、やはり同様に愛娘と引き離されるので、ある種の監禁とも捉えられるかもしれない。いずれにせよ、形は違えど三作すべて誘拐に関連して復讐が始まっている。

●食べ物

オールド・ボーイ』は餃子、そして本作では豆腐が印象的な使われ方をしていた。ここで面白いのはこの使われ方の違い。『オールド・ボーイ』は主人公が監禁生活十五年の間、食べさせられ続けた餃子の味を頼りに犯人を捜索するので、いわゆる犯人と自分を結ぶ鍵として使われている。一方、こちらは真っ白、純潔の象徴として、心をきれいに洗うものとして使われている。

●暴力描写

三作共通して必ず結構出血。復讐、暴力、殺人といったキーワードに嫌悪を持たせるほど徹底している。非力なクムジャは銃器を使用したが、被害者の家族は刃物、鈍器を使っていたりと痛みを感じさせる描き方をしている。最後はビニールシートで血を集めてるし。前二作も主に刃物や鈍器を使用しており、暴力というものに対して、それを軽々しく扱うことなく、必ず多くの血と痛みと嫌悪が伴うものであるという一貫したスタンスを保っていた。

さて、なにやら久々に無駄に長くなったがもうちょい。『親切なクムジャさん』というタイトルを聞いたとき、親切で寛大な人間を演じつつ、復讐を遂行しようとする冷酷な一面をもつ女性を想像していた。で実際は根っから優しくて親切ではあるのだけれど、それで恩を売ることで時に利用することもあり、ずいぶんと刑務所仲間なんかとは「ギブ・アンド・テイク」な関係だったようで。ただ、ペクと結婚している女性までいたあたりが、どうも物語の説得力を失わせる面もあり、残念だった。それと、クムジャ自身は復讐というより娘への贖罪の趣が強かったところ、前二作の復讐者と違って、被害者家族を呼ぶあたりに象徴されるようにクムジャが周りにも目を向けられる人間であったこと、そして刑務所を出た時点で拒否した豆腐をすべての計画が終了したときにかぶりつくところが、この作品を深めている感じがした。前二作に比べパンチ力には欠けるが、一番まとまっている作品だったと思う。

余談だが、メガネかけてやたら中途半端な髪型のチェ・ミンシクが「ガキの使い」のヘイポーに見えた。しかしミンシクだけならまだしも、ソン・ガンホユ・ジテシン・ハギュンを出されると、この作品に余計な感情が入ってしまう感じが否めない。

(評価:★4)

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