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[コメント] ディパーテッド(2006/米)

観る前は不安も大きかったが十分に面白い映画だった
JKF

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







俳優たちの演技は実に見ごたえがあり(でもデカプーの演技になんか見覚えのあるのは気のせいじゃないよな)、もともとそれなりに面白い脚本のおかげで物語には安定感がある。

俺としてはオリジナル版のラストのラウ(この映画でいうマット・デイモン)の心情変化が不可解だったため、その点でオリジナル版に不満があった。それゆえ今回のリメイクでの「連続殺人祭り」でのオチのつけかたは個人的にはプラスである。オリジナル版は三部作で通して観ると「無間地獄」という仏教的観念を描きたかったのかなとは思うのだけれど、そういう側面をアメリカ映画に要求することは無理だし、如何せん残りの二作は完全なる蛇足だと思っているので。

スコセッシはなんだかんだで自分の持ち味をうまく発揮しているが、俺の本作最大の不満は作品世界の空気が伝わってこないことにある。

タクシードライバー』にも『レイジング・ブル』にも『グッドフェローズ』にもそれがあった。近年では、世間的に評価は高くないけれど俺としては非常に好きだった『ギャング・オブ・ニューヨーク』なんかにもそれがあった。背景となっている都市や時代が醸し出す作品世界の空気は、描かれる作品の主人公の感情と結びつき、実にエモーショナルに胸を衝く。ニューヨークの腐った街中でベトナムの傷を抱える男にも、拳に頼って生きるしかなかった不器用な男にも、ギャングに憧れ綱渡り人生を送ることを余儀なくされた男にも、時代の変化に身を委ねるしかなくなったかつてのニューヨークのボスにも、輝きがあった。偉大でも何でもない男たちの生きた足跡がフィルムに焼き付いていた。彼らの生きた街や時代が肌で感じられた。そしてそこにスコセッシの描きたかったものが在るのだと思う。

でも本作にはそれがない。レオナルド・ディカプリオの苦悩が現実味を帯びて伝わってこない。暴走するジャック・ニコルソンには「相変わらずニコルソンだなぁ」ってだけで、身一つでのし上がった生きざまを感じられない。彼らの生きたボストンがどういうところだったのか、どんな空気をもっているのか伝わってこない。あと30分長くしてボストンという街を舐め回し(ちょっと口頭で説明するくらいじゃ足りないんだよ!)、駆け引きとしてのドラマだけではなく、彼ら自身のドラマを掘り下げてほしかった。

なんだかんだで娯楽性もあるし、スコセッシらしさがしっかり出ている部分があるからなおさら惜しいんだよな。

あ、あとアカデミー賞は近年の『アビエイター』『ギャング・オブ・ニューヨーク』より娯楽性が高かったから、功績を讃えるって意味でバカなアメリカ人どもがあげちゃったんだろうよ。でも、次回作の『沈黙』まで待ってもよかったんじゃないかって思った。舞台が日本だろうと、エモーショナルに作品世界が展開すると期待しているから。

(評価:★4)

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