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[コメント] 博士の愛した数式(2005/日)

そう。数学は哲学なのだ。
Pino☆

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 『ビューティフル・マインド』を観たときの失望感を、この映画は綺麗に拭い去ってくれた。それだけで、5点と言わず、6点あげても良いくらいだ。確かに、映画的には、首を傾げるところが全く無かったわけではないが、この映画のメッセージにすっかり魅了されてしまった。本当に大きな拍手を贈りたい。

 フィクション、ノンフィクションに関わらず、数学者やサイエンティストが登場する映画は枚挙に暇がない。しかし、登場する科学者を肯定的に描いている映画はそれほど多くは無い。大抵は、『博士の異常な愛情』のストレンジ博士の様に極端なマッド・サイエンティストか、理論は通用するが、情は通用しない理屈人間として、否定的に描かれる。それが悪いわけでは無い。行き過ぎた科学への警鐘を描くのなら、アンチテーゼとしてのマッド・サイエンティストは必要だ。

 でも、(自分が理数系だからかもしれないが)理数系の人間が嬉しくなったり、自分が理系であることを誇りに思えたりする様な映画が、もっとあっても良いと思うのだ。そんな映画は探してもなかなか見つからない(自分が観た中では、『アポロ13』や『遠い空の向こうに』くらい)。だから、数学者や科学者を扱った映画と聞くと、過度に期待を抱くのである。

 数年前、実在する数学者ジョン・ナッシュを扱った映画『ビューティフル・マインド』を観に行ったときも、そんな期待を抱いていたのだが、期待は見事に裏切られた。実在する数学者は常識外れの極端な奇人に描かれ、主人公が惚れ込んだ数学という学問は刺身のツマ以下の存在に成り下がっていた。主人公が心底愛した数学を描かずに、どうやって彼の人生を語れるものだろうか?

 話が逸れたが、『ビューティフル・マインド』に失望し、本作を殊更気に入った理由は、次の博士の台詞に凝縮されている。

 「証明が美しくなければ台無しだ。本当に正しい証明は、一分の隙も無い完全な強固さとしなやかさが矛盾せずに調和しているものなのだ。」

 ”数学”と聞いて、嫌な顔をする人は多いが、そんな人は、数学を役に立たない割に小難しい問題を解かなきゃいけない厄介なものとしか捉えていないのだろう。これは、中学や高校において、思想としての数学よりも、計算の道具としての数学を強調してきた結果ではないかと思われる。でも、それって凄く不幸なことだ。

 ”数学”というのは、本来、真理探究の学問だったはずである。それは、数学の歴史が物語っている。

 自然界には、幾つもの美しい形が存在する。例えば、氷の結晶、蜂の巣、トンボの眼や羽、月、シャボン玉・・・ これらの形は理路整然としているが、何故そうんな形をしているのだろうか? そんな疑問を説明しようとしたことが、数学のはじまりだったとされている。つまり、物事の真理を探究し、論理的な解釈を与えようとする試みこそ、数学の原点だったのである。これが、「数学は思想であり、哲学である」と呼ばれる所以ではないかと思う。

 数学という言葉の語源も、数学が哲学であることを証明している。数学は、英語で"mathematics"と言われるが、この言葉の語源は、ピタゴラスがラテン語の”mathema(学ぶことができるもの)”と、”mathesis(学ぶ動作)”の2つの意味を同時に込めて作った言葉、”mathematikós(好んで学ぶ)”だとされている。そう、学ぼうという姿勢や探求心こそ”数学”なのだ。

 かなり話が横道に逸れたが、本作は、その数学の本来の面白さや魅力を本当に上手く説明していた。理系の私としては、もうそれだけで、☆5に値する。

 そうそう、蛇足だが、私の誕生日は2月8日である。この映画と私は運命的な結び付きを持っているようだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)ちわわ[*] Santa Monica sawa:38[*] 映画っていいね[*]

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