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[コメント] キング・オブ・コメディ(1983/米)

現実と妄想が意識の中で交錯する様子が見事に描かれていた。ラストは妄想と捉えるか、現実と捉えるかで全く違った色の映画になる。もし、妄想と捉えれば非常に悲しい映画だ。それにしても、この映画は題名だけで、どこをとってもコメディではないな。
Pino☆

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 パプキン(ロバート・デ・ニーロ)が一躍スターになるラストシーンは、現実とも妄想ともとれる。が、これは妄想と考えた方が妥当だろう。

 TV放送でパプキンが行った漫談がつまらなかったというコメントが多いが、これはラストが妄想だと考えると納得できることだ。パプキンは、自分のことを才能のあるコメディアンだと思い込んでいるが、実際は才能など全く無いコメディアンである。だから、今まで舞台にも立てなかったし、一流コメディアンになるチャンスも全く巡ってこなかったのだ。

 パプキンが漫談を行うシーンでは、爆笑している観客の歓声が聞こえるが、あれはおそらく本物の笑いではない。最初にあのシーンを観たとき、アメリカ人は笑いが分からないのか、笑いのツボが違うのか、私も首をかしげてしまった。だが、実際良く考えてみれば、パプキンはコメディの才能がないのだから、つまらないのは当然である。そんな面白くないパプキンの漫談に観客が大爆笑していた理由は、おそらくプロデューサーの説得があったからだろう。

 軟禁されているジェリーのことを気遣って、プロデューサーは、ショーの直前に「彼を刺激しないように、笑ってください。」というような前説でもしたのではないだろうか。つまり、あのスタジオでパプキンが面白くないことに気付いていないのは当の本人だけで、大爆笑していたスタッフや観客は全員そのことに気づいており、大芝居を打っていたのであろう。

 そのように考えると、ラストシーンで一躍スターダムに伸し上がるパプキンの姿は彼の妄想である。現実はそうは上手くいくものではない。ラストのパプキンの活躍は、見た目の映像とは裏腹に、いつまでも妄想にしがみつく男の哀しさが痛々しい。

 以上、私見だが、この映画のラストの解釈は非常に難しい。個人的には、ラストの妄想を現実と解釈してしまうと、この映画の評価はとても低くなるような気がする。そんなわけで、欲を言えば、ラストはもう1度冷たい現実に戻って、例えば、『未来世紀ブラジル』の様に、パプキンが銃殺されてしまうようなシーンがあれば、もっと分かり易い作品になったと思うのだが・・・。

 しかし、マーティン・スコセッシの映画は本質を掴もうとすればするほど、難解な世界に引き込まれるから、厄介だ。 

(評価:★4)

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