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[コメント] サンシャイン 2057(2007/米)

科学的な考証や設定がゆきとどいた丁寧さで、そのことによって圧倒的な太陽の存在感を迫力をもって描いた本格的な科学SF。一種の「太陽バンザイ映画」とも言える。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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銀河系スケールで離れたところから、わが太陽系を観測するとどう見えるか。今の地球上の観測技術からすれば、普通は太陽しかない空間としか見えない。それでもひょっとしたら惑星系を持っているかも知れないという「思い込み」(可能性という概念では問題にならない)のもとに、集中的な観測を行えば(ちょうど今の惑星探索のように)、かろうじて木星の存在が探知されるのではないか、というのが外から見た太陽系の姿と言われている。

そこでは地球などは星間空間に漂う塵と大差ない程度の存在に過ぎない。つまり、それだけ太陽とは、この太陽系においてはあらゆる意味で圧倒的な存在なのである。そういう太陽をひしひしと感じさせてくれた映画だった。

また、メインコンピューターが手動操作中の事故に対応するために自動制御へ戻そうとする時に、人間側の緊急優先指令について、複数の乗組員から求めるなど、いかにもありそうで現実味のあるやりとりだったし、イカロス1号へ向かうかどうかを多数決で決めるのではなく「専門知識にもとづいて判断すべきだ」など、人類最後の希望を託した宇宙船の乗組員に相応しく、科学的思考の訓練と高度な専門知識を持ち合わせた人間像などをさりげなく描いて、SFの世界へスムーズにいざなってくれた。

他にも水星軌道を超えて太陽に接近する中で、シールドからはみ出た部分が容赦なく破壊される描写など、太陽のもつ巨大さ、圧倒的なパワーがひしひしと感じられるし、それは太陽系の正しい姿の反映でもある。

だからいよいよ太陽が近づけばそれに圧倒されて、人間の側に精神的な不安定さが増幅されるのはわかるし、計算ミスから危機を招いた宇宙飛行士が自殺を図るところまではわかる。

イカロス1号が、そのために自滅したというのもありそうだとは思うが、イカロス2号までが7年間生き延びていた1号の発狂した生存者によって、危機を迎える設定はちょっと行き過ぎではないだろうか。そのためになんだか最後の方はありきたりなエイリアン物みたいな安っぽさが漂ってきてしまった。あの狂人はまったくの蛇足としか言いようがない。

あんなものを持ってこなくても、イカロス1号機の自力飛行が不可能と判明した時点で、すでにミッションから生存する確率は相当下がっているし、その下で巨大な太陽へさらに接近することになるのだから、あんな狂人は出さなくてもよかった。その点だけはかえすがえすも残念ではあるが、それでもその登場までだけでも十分、高水準の本格科学SF映画として満足できる仕上がりであることは間違いない。

またこの映画を見て、本格SF漫画の先駆者、星野宣之が太陽活動の低下と氷河期来訪をテーマに描いたSF漫画の名作「巨人たちの伝説」と、もう一つの短編でタイトルは忘れたが、太陽エネルギーをレーザー光線で地球へ送るための宇宙船のことを扱ったもの、を思い出した。

(評価:★5)

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