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[コメント] チェンジリング(2008/米)

見終わって、吉田松陰の辞世の句、「親思う 心にまさる親心 けふのおとずれ何ときくらん」を改めて噛みしめる。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







過酷な現実にさらされたもとで、子を思う親の情愛の深さだけでなく、その親を慕う子どもの心、さらにそれがかなわぬことの無念さ。

実話ベースの映画で親子の絆をこれだけ多面的に、深く描いたクリント・イーストウッド監督の手腕、力量には敬服する。まさに円熟の極みというべき境地ではないだろうか。

映画としても、抑制された演出ながら、その意図することを明確に伝えている。とりわけ前半、アンジェリーナ・ジョリーが精神病院へ放り込まれるまでのシーンは下手なホラー映画よりも怖かった。胴震いするような、身体の底まで脅かされるような言い知れない恐怖で、絶望の淵に立たされるとはこういうことかと、見ていて身がすくむような恐ろしさがあった。

病院でのシーンも、怖かったが、それでもその怖さはまだ怒りの対象がようやく見えてきた中での怖さという感じがしたが、それまでの、少年を息子だと言い張る警察とのやりとりなどは、これはひょっとして「オーメン」とか「ローズマリーの赤ちゃん」(怖いのは苦手だから両方とも未見なんだが)みたいなホラー映画かとさえ思った。

それがようやく病院のシーンや、牧場での事件が出てきてサスペンスタッチになって、ホラーが苦手な私としてはちょっと安心してしまったが、それくらい怖かった。

また、物語の焦点を主役のアンジェリーナ・ジョリー一人にしぼった事も上手いと思う。

長期にわたる事件を題材にし、時間も短くないだけに、下手したら登場人物とかが多すぎてごちゃごちゃしかねない中で、彼女を一貫して中心にすえたのは良かったし、しかもそうでありながら、職場の男性上司や、病院での娼婦、子どもが行方不明の夫婦、牧師や弁護士などとの絡みは、短いながらも的確な描き方で、それぞれが心に残る、人とのつながりだったと思う。まさに監督の腕の確かさの現われともいえるのではないだろうか。

ラストも絶妙な余韻を残し、悲惨な事件ではあるが、一筋だがしっかりとした希望をも感じさせ、実に良質な映画になっている。

(評価:★5)

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