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[コメント] モンスターズ 新種襲来(2014/英)

「モンスターズ」と題してはいるものの怪獣映画ではなく、ほぼ戦争映画。それも米軍が現実に中東で進めている悲惨な戦争の実態を一人の兵士の目線で、仮借なく暴いている。それ故、変な日本語副題よりも原題直訳の「暗黒大陸」の方がふさわしい。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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1作目の『モンスターズ』でもモンスターそのものが暴れ回る描写は皆無で、その造形について「遊園地の着ぐるみ」レベルと評した。低予算故であろうが、それでも1作目は巨大な怪獣に蹂躙されてゆっくりと壊れていく世界を描くという点で、怪獣そのものがほとんど登場しなくても優れた怪獣映画だったと思う。

ところが本作では、1作目の成功で予算がついたのか、モンスターの描写は迫力が出たし、馬サイズのモンスターが群れて砂漠を疾走しているとかの描写は増えた。にもかかわらず1作目と大きく異なり、アレが怪獣である必要性がほとんどなくなってしまった。

地球を、社会を壊すモンスターから地球と社会を守るために、中東の砂漠にまで広がったモンスターに対し徹底した空爆を行い、巻き込まれた民間人の犠牲にはさして注意を払わず、それに反発した武装勢力及び武装勢力と見なした人々へは問答無用の武力行使に及ぶ。

ところが肝心の中東の砂漠で暮らしている人たちにとってモンスターが脅威を与えている描写は皆無である。むしろ砂漠の民はモンスターと共存しているかのようにさえ見える。

ここまで書いて、上の文章で「モンスター」を2015〜16年にかけて国際的なテロ組織として欧米世界から脅威と撲滅の対象と見なされている「IS」やいわゆるイスラム過激派武装勢力と置き換えてみても、ほとんど違和感はないのではないか。

そういうことを知っていてあえて、「地球を守るためにモンスターを退治する」という名分の下に、現にアメリカが中東で行っている戦争の悲惨で凄惨な現実と、その中で無惨に無意味に朽ち果てていく一人一人の兵士の姿を、遠慮なしに暴き批判しているようにもみえる映画である。

この点だけとれば、日本の怪獣映画の金字塔であり、太平洋戦争の恐怖の記憶と水爆実験を抜きには語られない第一作目の『ゴジラ』に比肩しうる映画でもある。

その意味でとんでもない怪獣映画とも言えるが、欲を言えば第一作目『ゴジラ』のように大暴れする怪獣の姿などエンターテイメントとしても一線級であったひそみにならって、巨大怪獣同士の激突とか、もっとはでに近代兵器で怪獣と戦う軍隊とかも見せるというサービス精神があっても良かったかなとは思うよ。

(評価:★4)

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