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[コメント] パラサイト 半地下の家族(2019/韓国)

頭の中に充満する強烈な臭いの映画であり、明確な階級間断絶を描いた映画でもある。普通の2D上映で、鼻には何も感じないが、それでも「これか」という臭いがある。これこそが映画の力だろう。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







流行りの4DX上映とかいうのがどんなものか、観たことがないからわからないが、本作ではかなりはっきりと臭いを感じることができる。鼻ではなく、目で、耳で臭いを感じ、頭の中にそれが充満している。

ただこれは私が、半地下で暮らす方の側だからわかるのかとも思うが、高級住宅の方でも普段は感じないが、たまにある場面で非常によく感じあの臭いかとわかるのではないだろうか。

そしてその臭いの感じ方の違いに典型的に示されているが、この映画は、かなりはっきりとした階級間の断絶を描いた映画でもあると思う。もはやそれは対立などではない。明確に違うものとして描かれていると思う。

作品中、裕福な社長夫婦は基本的に好人物として描かれている。臭いが気になるとは言ってもその臭いのことを下品でけなすような言い方は(側で聞かれていると知らなくても)しないし、よくある嫌味な金持ちのような描かれ方もしていない。

なぜなら、もはやそんな描き方をする必要もないということなのだろう。裕福な社長一家にとって、家庭教師とか運転手とか家政婦とかは、ただの使用人であって自分たちとはまったく別のものなのだからだ。だからくさす必要もないし、見下す必要もない。言ってみればペットの犬と変わらない。

だからこそ、いきなり電話してきてこれから直にラーメンを作れだとか言うし、大雨による水害でかなりの数の避難者が出ている状況であるにもかかわらず、当たり前の様に家に来てあれこれせよと平気で言える。そもそも相手の事情などを考える必要もないのだ。

裕福な息子のためのサプライズに付き合せる最中、妻がどうこうと言い出したらそんなことはお前には関係ないと言わんばかりに「これは業務の延長だ」と言い放つ。別に人間的なつながりがあるから頼んでいるのではないと、はっきりとわからせる必要があるからそうしたのだ。

ところで大雨の翌日、裕福な一家に呼ばれた使用人たちは避難所で服を漁って駆けつけた。映画の物語上は、その使用人たちにもその住宅に片付けなければならない問題があったから、少々の無理をしてでも、呼ばれたことを幸いに駆けつけたことになっている。

しかし、この映画の物語を少し離れて考えてみても、大雨の翌日に水害で大変な目にあっても雇い主から息子のサプライズパーティーだとか、買い物だとかなんだと言われたら、やっぱり彼らはたとえ避難所からでも雇い主の下へ駆けつけていたのではないだろうか。

彼らは一方では、そういう風に成ってしまっているように見えたのが、この映画の本当にすごいところだと思う。

そしてそういう人間になっているからこそ、上にいるはずの裕福な一家をそっちのけで、半地下と地下が、自らの死活をかけてあい争ってしまうのだ。

自分がどんなに惨めだと思えても、まだその自分に下がいると思えば安心するし、自分は上にいる者に歯向かったり戦いを挑んだりはしないが、下にいる者たちが自分のいるところへ上がろうとすることは決して許さないし、そのためには必死になるのだ。

ただそういう、人間性を踏みにじる正視できない醜い矛盾は最後の最後で暴発する。

娘(とは知らない)でなくても刺された女性の手当をしている男に向かって、最初に発する言葉が「自分の息子を病院に連れて行くので車を出せ」なのだ。そして躊躇する男を見て気がつくのではなく、時間がもったいないと思ったから「鍵を渡せ」と言う。

その鍵をとろうとした瞬間の裕福な社長のしぐさと、ソン・ガンホの一振りは、この流れの中ではむしろ必然であり、納得の一振りでもあった。

この明確な階級間の断絶を見て私は、ウディ・アレンの『マッチ・ポイント』を思い起こした。あれはイギリスを舞台にした映画であり、拙コメントで階級間の断絶を描いたウディ・アレンの底意地の悪さを述べた。

なぜか本作ではポン・ジュノ監督の底意地の悪さは感じないが、この階級間の断絶を見て、今の韓国がどういうところになりつつあるのかが、垣間見えたような気がした。そしてそれは果たして、イギリス、韓国と来てどこへ拡がるのだろうかという、不気味な予感もさせるのだ。

(評価:★5)

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