コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] KCIA 南山の部長たち(2019/韓国)

一人の男が追いつめられていく様を、ひりひりするような緊迫感の中で描いた、第一級サスペンス。だが、これが答えなのだろうか。あるいは事件から40年が経って、韓国はそれをようやく娯楽作として撮ることができるようになった、ということなのだろうか。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







なぜ独裁政権を支えてきたKCIA部長にして大統領の最側近でNO2である人物が大統領を暗殺したのか、またそれは突発的なものだったのか、それとも何らかの周到な計画がされたものなのか、疑問が多いし、本作はそれに答えようというものではないとは思う。

本作はアメリカが朴大統領に見切りをつけつつある中で、強引な弾圧路線では国際的な孤立を深めるだけだと認識している金部長が、穏健路線を勧めてもそれをはねつけられ、さらには自らの地位さえ脅かされそうになって、追いつめられる中で、民主主義を確立するとともに、保身と権力奪取を図って決起に及んだ、という図式をとっている。

だが同じように朴大統領暗殺の当日を描いた2005年製作の『ユゴ 大統領有故』の拙コメントでも触れたが、朴独裁政権の下で数々の非合法活動や弾圧を行ってきたKCIAの責任者が「民主主義のために」というのは疑わしい。国際世論の手前、強硬路線を控えるべきだということは言っても、せいぜいその限りのものとしか思えない。

それに本作は、1979年の時点でアメリカが朴大統領の独裁者ぶりから見放した、としているが、それがそもそも疑わしい。アメリカは1980年代でも中南米の軍事独裁政権に直接的な軍事援助も含めて手を貸している。それから比べれば朴大統領の弾圧ぶりがまずいから彼を見放すとは素直に受け取れない。

別にアメリカが朴大統領をかばったり支えたりしたとは言わないが、アメリカの利益に反することがない限り、少々手荒な国内政治をしていようとアメリカが文句を言うだろうか、という気もする。劇中には駐韓米大使が「在韓米軍を引き上げるぞ」みたいなことを言っていたが、アメリカがそんなことをするとは到底思えないし、そのことは韓国でも知れ渡っていると思う。

だからこそ本作は実録本を原作にしているとはいえ、あくまで「実話を基にしたフィクションだ」と断りをいれているのだろう。そしてそういうものとして割り切って、娯楽サスペンスとして楽しむ映画だと思う。

その意味でも観て良かったと言える一本だった。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。