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[コメント] すばらしき世界(2021/日)

終盤、役所広司がモップを持つシーンからラストまでの、一連のシーンは、胸に深く迫り心を揺さぶられる、神がかり的な出来映えだった。全編を通して、重層的というか深みがあり、映画として傑作だと思う。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







出番こそ少ないが長澤まさみも絶妙だと思う。役所広司が二人を相手に喧嘩をした時に、びびってカメラをもって逃げてしまった仲野太賀を追いかけて、「撮って伝えるでもなく、撮らずに割って入って止めるでもない。」となじったシーン。観ていた時は私も「なるほどその通りだなあ」と思った。案外やり手のプロデューサーという感じなのかなとかも思った。

しかし終盤のモップのシーンからの下りは、世の中、そんな単純に割り切れますかと言われたような気がした。弱い立場にある人間を蔑む、社会にありふれた些細な「悪意」を目の当たりにした役所広司がとった態度は、カメラを持ったまま逃げ出した仲野太賀と本質的には同じではないだろうか。

「社会の中で普通に生きる」という、何が正解かよくわからないことを為すために、時には自分を守るために、であろうか、周囲にあわせ、心を押し込めていく。その先に、普通に生きる、ということがあるんでしょうか、という問いかけで、この映画は終わったのではないだろうか。

それを直接に言わず、映画として示した点で、本作は紛れもない傑作であり「すばらしき映画」だと思うのだ。

ラスト近く、雨の降るアパートに帰り、干していた洗濯物をあわてて取り込む。端にあって一枚だけ残された洗濯物、「あらら、あわてて忘れてるよ」と思った頃に、ぱぁーっとカーテンが風に舞い、嵐の中、窓が開けられたままであることがわかる。そこで「もしや…」と思う。

こうやって文字で書くとあざとい感じがしないでもない。でも、映画を見ているときは本当に心が震えた。

そしてラスト、泣き叫ぶ仲野太賀の気持ちが痛いほど良くわかる。単に彼の急逝が悲しいだけではない。この先、彼がどう「普通に生きていくのか」を見たかった、そしてそのことによって「普通に生きる」とはどういうことなのかを、知りたかった、それが断たれたことが本当に無念だった。

手にしたコスモスと雨上がりの青空のラストカット。こういうのが映画として完璧ということなんだろうなとつくづく感じた一本だった。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)太陽と戦慄[*] おーい粗茶[*] なつめ[*]

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