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[コメント] ザ・メニュー(2022/米)

アニャ・テイラー・ジョイが素晴らしい。堂々とレイフ・ファインズの向こうを張っている。そして意表をつく展開で、最高の緊張感と狂気が存分に楽しめる。真の狂気は外側を見ているだけではわからない。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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天才的なシェフともてはやされ、それに応えて全身全霊で最高の料理ともてなしに尽くしながら、もてなした客は、そのことをどれだけ理解しているのか、というありふれた葛藤をとことん突き詰めた狂気が感じられるシェフとスタッフ一堂はわかりやすい。

同時に本作は、そのシェフとスタッフを己の見栄と欲望のための飾りのようにしか見ていない者たち、つまりシェフ等を狂気に追い込んだ客たちも、人と真摯に接することができない狂気に侵されたものとして描いていると思う。この点では、最近流行りの「格差」社会を描いた面もあるといえるだろう。

だから、そういう狂気にあふれたレストランに思わぬ形で紛れ込んだ真っ当な人間が、普通に振舞って難を逃れるのは当然の結末なんだろうなあ。

そして彼女のような人間がいるからこそ、我々は狂っているのかどうか、時たまであれ、振り返ることができるのだと思う。格好こそきれいでセクシーなドレスと抜群の美貌をもちながらも、そういう普通の人間を演じてみせたアニャ・テイラー・ジョイは本当に素晴らしい。

ところで、映画ファンとして本作を観た時に気になるのは、シェフの恨みを買った一人である映画スターだ。彼は、シェフの滅多にない休日に観た映画があまりにひどかったという理由でかの晩餐会に招待された(その女性マネージャーの理由はよくわからんが)。途中、彼のその映画は素晴らしかったという強烈な皮肉もあったが、概ねはひどい映画だったのだろう。そして映画ファンなら似たような経験は誰もがしていると思う。

そしてその指摘に対するかの映画スターの第一声は「監督は俺じゃない」(つまりその映画がひどいとしてもそれは自分のせいではない)と言った。この台詞もなかなかに意味深である。監督の自戒を込めた台詞か、それとも狂信的なファンがいるかもしれないという映画界への警鐘であろうか。そういうことを考えさせるのは、本作が良い映画であることの証明の一つだと思う。

(評価:★5)

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