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[コメント] 血槍富士(1955/日)

若侍が障子を開けて、ふと外を見やると、道向の部屋の窓べりに腰かけていた可愛らしい娘と目があう。「あれ」と心の中で声をあげて、慌てて障子のかげに隠れてしまう娘など、思わず「ほほう」となる素晴らしいシーンだったなあ。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ラストまでは、まるで落語の人情話のような、ほのぼのとした展開が続き、「ずい分似つかわしくないタイトルがついているなあ」と思ったが、最後の展開にはびっくり。

こういうラストになってくると、途中、自分勝手な「野点の風流」で延々と街道を封鎖していた大名連中の描き方もずい分、受け取りが変わってくるから不思議だ。あれなどは風刺と皮肉を利かせながら基本は滑稽さを描いたシーンだと思ったが、このラストからするとまるで逆で、滑稽さを借りた痛烈な武士階級への風刺、ということになる。そういう気持ちもわからなくはないが、それでもさすがに唐突であり、全体を通してまとまりを欠いた感じはいなめない。

ただ、個々のシーンは非常によくできていると思う。コメントにあげた情感豊かなシーンや、「槍持ちになりたい」という子供に槍持ちの仕方を教えておきながら、ラストでは「槍持ちになんか、なるんじゃねえ」と言ってのけた主人公など、伏線の張り方も上手い。でも、どうにも最後の立ち回りが意外すぎて、一つの映画とは思えない、というのが正直なところ。

立ち回りの組み合わせを、若侍一行+十手持ちその他と、強引に娘を連れ去ろうとする、悪どい女衒の一味、として痛快チャンバラから、無事、娘を取り返し、めでたしめでたしと街道を江戸に向う、というのもあったろうに(まるで「水戸黄門」みたいだが)、そういうラストをあえて蹴飛ばして、武家社会批判に持ってきたのは、斬新といえば斬新なんだが、「うーん」と言わざるを得ない映画ではある。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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