[コメント] 人情紙風船(1937/日)
並々ならぬリアリズムで、胸にささる映画。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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裏店長屋の背景に見える、何層もの樽置場とそこを行き来する人足、長屋で騒ぎがあれば人足もちらっと一瞥をくれる。
雨の中、とりすがる海野を、敢えて駕籠に乗り込んでから呼びつけて引導を渡す毛利と、呆然と絶望に打ちのめされる海野。
最後の方で、酒屋で財布を主人にあずけてから姿を消し、傘の返却を頼む新三。彼のその後がどうなったのかだけは明示しないのが、『丹下左膳餘話 百萬両の壷』、『河内山宗俊』と共通する山中貞雄流か。
このリアリズムがあるからこそ、長屋暮らしの人情あふれるユーモラスな風景が、いかに危ういものであるか、一歩間違えれば唐突な悲劇におちいる、その切ない現実が胸にささる。
『丹下左膳餘話 百萬両の壷』が胸のすく映画なら、『河内山宗俊』は胸おどる映画であり、『人情紙風船』は胸にささる映画であった。
改めて山中貞雄の見事な映画づくりに感嘆する。
また本作では、悲運の浪人を河原崎長十郎が演じているが、その悲しくなるくらいの卑屈さには、とてもじゃないが『河内山宗俊』で演じた堂々たる押し出しをもった主人公と同一人物とはとても思えなくて、その芸域の広さにも驚き、敬服した。
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