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[コメント] ジャンヌ・ダルク(1999/仏)

神がかり的な伝説となっているジャンヌ・ダルクを、なかなかリアルに描いた映画だと思う。監督としてのリュック・べッソンを見直した。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ジャンヌ・ダルクの歴史への登場は、英仏百年戦争の後半である。この戦争は当時のイギリス王室が、フランス王位の継承権を主張して、海を越えてフランスに攻め込んだ。やや複雑だが、イギリス国王はフランス王室につらなるフランス貴族でもあったから、フランス王位を主張して攻め込んだ。

しかし当時のフランスはヨーロッパ随一の大国であり、イギリスとの国力には格段の差があり、潜在的な兵力だけを見てもその三倍近いものがあった。にもかかわらず、イギリス軍の快進撃が続いた。

その背景には、フランス王位をめぐる戦争だからフランスの有力豪族、封建領主たちにとっては、自分の領土さえ安堵されていれば、誰が国王かはさしたる問題ではないので日和見を決め込みだという事情があったらしい。中にはイギリスと密約を結び、味方するものもいたと言われている。

とりわけジャンヌ・ダルクが登場する直前のフランス王室は、放蕩王妃によって混乱を極めていた。国王シャルル6世は発狂し、その妃・イザボオはなんと王太子(後のシャルル7世)は、シャルル6世の子ではないと公言してしまう。この大混乱のときに、名君の誉れ高き英国王ヘンリー5世は、パリに押し寄せ、ついにシャルル6世の実子・カトリーヌ姫を娶り、いよいよ念願のフランス王位に王手をかける。

こんな状況でフランス貴族や封建領主たちは、厭戦気分にひたりきっていたわけだ。その時に「神の国、フランスからイギリスを追い払え」と威勢良く登場したのがジャンヌ・ダルクである。そして彼女がまずやったことは、シャルル7世を「こいつこそフランス王だ」と、彼が正統な王であると主張したのである。

その出生についていろいろ噂はあっても、正面きって「彼が王だ」と言われると反論のしようもなく、シャルル7世は王位につき、ジャンヌ・ダルクの要請に応じる形で、オルレアン救援を命じる。

かくてジャンヌ・ダルクはフランス国王の勅命を旗印に、しぶっていた有力豪族にきちんと兵を出させて、陥落寸前であったオルレアンに駆けつけ、イギリス軍を見事撃退する。そしてその勢いをかって、今度はパリを解放しようと進言する。

ところが今度はフランス王室は冷たかった。フランス王室にしてみれば、シャルル7世が正統な王位についた時点でジャンヌ・ダルクの役割は終わっているわけである。オルレアンでの勝利は余禄みたいなものであった。

そもそも正統な王位をシャルル7世が継いでしまえば、イギリスの目論見はほぼ阻止しているわけだし、そうなれば大義名分のないイギリス軍は、いずれは引き上げざるを得なくなるだろうという読みもあった。(甘い読みかもしれないが、当時のキリスト教世界ではローマ法王を味方にすれことができれば、つまり「外交努力」でイギリスを撤退させられる可能性はあったのである)

そんな時に「戦え、戦え、戦ってイギリスを追い払え」とやかましいジャンヌ・ダルクはうっとうしいだけであった。かくして、フランス王室の後ろ盾もないまま、彼女はまともな戦力も確保できずにパリへ進軍し、あっさりと敗走し、ついにイギリス軍に捕獲される。そしてフランス王室は彼女を助け出そうとはしなかったのである。(当時は捕虜になっても相応の身代金を払えば解放されるというのが当たり前であった)

つまり、ありていに言えばジャンヌ・ダルクはフランス王室にいいように利用された挙句に、見捨てられたわけだ。そんな彼女だから、その評価についてはけっこういろいろ言われている。

ただオルレアンにとってだけは違った。イギリス軍に包囲され蹂躙される寸前であったオルレアンに、しぶる豪族の尻を叩いて救援に駆けつけ、落城寸前のところを救ってくれたのは間違いなくジャンヌ・ダルクであり、かの地では彼女は絶対的な人気を得ているらしい。

冷静に歴史を見ると、フランスは王室の混乱によって一時的な危機に陥ってはいたが、なんらかのきっかけさえあれば、イギリス軍を退けることはそう難しいことではなかった。

そしてそのきっかけとなったのが、ジャンヌ・ダルクであった。だから彼女が華々しく歴史の表舞台に登場し、その役割が終わるとあっという間に消え去ってしまうのも、宿命ともいえるんじゃないだろうか。

この映画は、そういう歴史に生きた人間としてのジャンヌ・ダルクを、そういうものとして描いていると思う。

(評価:★4)

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