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[コメント] たそがれ清兵衛(2002/日)

いかにも山田洋次監督らしい仕上がりで、しみじみと落ち着いて、そして時にはハラハラしながら見る時代劇として、十分楽しめた。ただ、私にはなんとなくこれが山田監督にとって最後の時代劇なように思えた。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







そう思ったのは、善右衛門を討ち果たして家に帰りついた清兵衛の姿を見て、娘のいと(かわいかったなア)が、びくっとして背を向けて逃げてしまうシーンを見たからだ。

人を斬るには獣にならなければなりませぬ、という清兵衛は、まさに獣になって斬り合いを生き残った。その彼が、家にたどり着いて愛娘を目にしたからといって、急に穏やかになれるわけがない。いとは、その清兵衛の鬼気迫る姿に反応して、思わず父から遠ざかったのだろう。

ここには人を斬るということの、無残さがまざまざと現われている。こんな形で、愛する娘から背を向けられる、そんな光景を、リアルではあっても、山田監督はこれからも描くだろうかなあ、と勝手に思い込んでしまった。

ここには、本格的な時代劇を指向する以上、避けては通れぬ一つの「壁」がある。どのような理由があろうとも、人を斬る、ということは、無残なことであるということ。それをしっかりと見据えた演出ではあるが、あまりに山田監督の作風とは異なるような気がするのだ。

しかしそれ以外では、いかにも山田監督らしい、しんみりとした人情が漂う。貧乏侍の苦労ばかりの暮らしの描き方がまた雰囲気を出していた。役者陣も丹波哲郎小林稔侍などもよかったが、やはり宮沢りえ真田広之がよかった。

特に真田広之がよい。最初の河原で棒切れで相手をしたときの身のこなしが迫力とスピード、切れがあった。殺陣のシーンとしては、この方が安心して見ていられたのは、やはり清兵衛が刀を抜かなかったからか。また、果たし合い前夜、小太刀を研ぐさまといい、素振りをする様といい、真田広之の立ち居振舞いが光った。

最後の屋敷内での斬り合いで、殺陣の最初の方で鴨居を確認するかのように、善右衛門がちらっと上を見やる。ところが結局、善右衛門はその鴨居に刀を取られる。これはなかなか深いな、と思った。「逃がしてくれ」「なめたな、斬る」と言いつつも、逃げることはかなわず、清兵衛を斬ってもせんない。そんな善右衛門の心情かな、と思いがふくらむ、心憎い演出であった。

それに、武家社会の悲哀、理不尽さにもさりげなくスポットをあてているだけに、その中で、ささやかに暮らす清兵衛の人柄が、かえって引き立つ。

(評価:★5)

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