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[コメント] そして父になる(2013/日)

とにかく残酷な作りだ。とにかく、残酷だ。
なをふみ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まず、取り違えの原因がどうしようもない私怨であり、その上そこには罪はあっても罰はない。始めから腑に落ちなかった病院側のあまりに軽い対応も、邪推すれば、弁護士の先見で罪のない看護師に病院側のなんらかの取り違えの過失を転嫁し金で解決した可能性だってある。実際に看護師個人によるのであれば、本当に司法ではどうしても裁けないことなのだろうか。これが絶望の対比としての幸福の、演出を軽く超えてあまりにも重荷となる。

育ての親か、生みの親か。そのままか、交換するか。

そして結末、この手の話の続きを鑑賞者に委ねる意図が分からない。

結末直前、みどり尾野真千子は琉星黄升�悄を好きになり始め、良多福山雅治は父性を抱き始める。しかし反して、琉星は斎木雄大リリー・フランキーらの育ての親の元に戻りたいと謝りながらも、言う。

この問題は親権を持つ両親のもののみならず、少なからず対象となる子供の心情も含まれなければならない。もちろん、6・7歳の子供に将来的な障害や命運はすべては分からないし、発言権も説得力もない。十中八九、育ての親を選ぶだろう。しかしこれを一切絡ませず、あくまで両両親の見解にて行われた生みの親としての選択にただ単純に、両子供は順応しなかった。するワケはない。大人の「そのうち」は子供にとっては途方もない時間で、琉星にしてみれば弟妹もある。

フィナーレに、良多は琉星を連れて雄大の家を訪ねる。この時点で、その先どう行動するのかは見えない。再開した慶多二宮慶多は逃げ出す。良多はそれまで無機質に子供に接し課してきたことを慶多に打ち明ける。それは決別か、復縁か、はたして、分からない。そして物語は終わる。

違うと思う。こうした問題だからこそ、もう一歩先を見せてほしかった。

交換せずにこれまで通り、育ての親として生活するのか。交換して時間をかけて生みの親として失った時間を取り戻すのか。両家が密な交流をして過ごしていくのか。その先っぽだけでも、少しでも見せてくれたら、とてつもない名作だったと、思う。明確な解答のような展開はいらない、本当に、少しでも、どう、生活していくかの触れだけでいい。

安い連続ドラマやラブストーリーの結末ではない、これだけ重い、重すぎるテーマをあくまでも重さを保ったままラストまで行った中で、その結末を鑑賞者に委ねる。結末の明確なプロットはあったのか、始めから敢えて委ねるつもりだったのか、これは残酷すぎる。泣くこともできない、悲しむこともできない、ただ、ただ、ずっしりと心だけが重く映画館を出ることになった。

(評価:★4)

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