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[コメント] 地獄に堕ちた勇者ども(1969/伊=独=スイス)

美しくない人形。
たわば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画、不在のテーブルに始まり、不在に終る。マルティンやギュンターは生きているが、そこにかつての彼らの姿はもうない。生き残ったのはナチスに支配された人間だけだ。そんな彼らの姿に「美」を感じることは難しい。もっとも、マルティンが身にまとうナチスの制服は、洗練されていて美しい。しかしその中身は、幼児性愛者であり、マザーファッカーなのだ。

マルティンは母親の人形であった。そんな人形である彼は、やがてナチスという巨大な組織の一員となり、かつての支配者を征服する。それはナチスの脅威が母なるドイツを蹂躙する姿そのものだった。しかしそこにマルティン自身の姿はない。愛されない悲しみはあったとしても、マルティンには自分が何をしたいかという自主性が感じられないのだ。もしマルティンが、ナチスの後ろ盾もなく独自に行動していたならば、それはある意味評価できたかもしれない。だが、彼は結局、誰かの権力を笠に力を行使しているにすぎず、それは人形の持ち主が変わったというだけでマルティンが人形であることに変わりはないのだ。そしてマルティンを人形にした母親は、マルティンにより人形のように破滅した。

己の美意識により人としての道を踏み外してしまう人物を描くヴィスコンティの映画において、他者に操られるだけの人物が美しく感じられるはずがないのだ。私がこの映画をどうも好きになれないのは、主人公の行動に「美学」が感じられないからだ。むしろ「気持ち悪い」と感じることこそ、この映画の正しい見方ではないかと思った。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)TOBBY[*] ganimede ジェリー[*]

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