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[コメント] どん底(1957/日)

身も蓋も無いラストカットが最高すぎる。
れーじ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







千秋実や藤原釜足、根岸明美の過去、東野英治郎の鳴らす鍋のやかましい音、左卜全の言葉、酒、そして「トントンチキチ、トンチキめ〜」という歌、踊り…

これらは皆、つらくて逃れられない現実から一時の間彼らを解放する嘘であり、虚構そのもの。左卜全の言う「つっかえ棒」。

それに対し、木賃宿での悲惨な暮らし、そこでのエゴのぶつけ合いという醜い現実。

押井守で思春期を育ったせいか、どうもこういう構図を見ると現実と虚構の対比に目が行ってしまう。

ビューティフルドリーマー』が虚構から現実を夢想する映画なら、この『どん底』はその逆。現実から虚構を夢想する映画。

そして『どん底』は、舞台が「現実」であるだけに、痛々しく観客の心をえぐる。『ビューティフルドリーマー』のように頭の中で楽しませてなんてくれやしない。小難しい理屈を弄ぶ暇なんて与えてくれない。ただ「現実」を突きつける。

「辛い本当より嘘のほうがいい」

それは虚構の上では真理かもしれないが、むしろ辛い現実にあって「本当らしくない嘘」は辛いだけ。

だから、ただ死にゆく者に一時の気休めを与えるぐらいの役にしか立たなくて、傷をえぐり、どん底にのたうつ人々をさらにどん底に突き落とし…

そして最後に突きつける。虚構の中で、現実を叫ぶ。

「ちぇっ せっかくの踊りぶち壊しやがった。 ばかやろう」

どれだけ嘘で塗り固めようと、辛い現実から逃れることなど出来はしないのだ。

最高。これ最高。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ[*] けにろん[*]

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