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[コメント] 汚名(1946/米)

「一見は未定」という状態こそ、サスペンスの醍醐味。その状態を、セリフではなく、カメラの構図によって示す。それがヒッチの魅力だと思うのです。
TM大好き

前半部のストーリーは単調ですが、後半部に入ってから徐々に盛り上がっていきます。その過程におけるカメラ技法の巧みさが素晴らしい。ヒッチコックの演出手法が完成されつつある時期の逸品と言えるのではないでしょうか。

例えば、二日酔いで目覚めた朝のシーンにおけるイングリッド・バーグマンの主観ショット。そこで挿入されるフリップオーバー。序盤のかったるいストーリーの流れを一気に変えさせてくれるワンカットです。また、バーグマンがカギを盗むシーン。カギに焦点をしぼったカットアウェイの編集によって、カギは巧みにバーグマンの足下へ。特にフェティッシュな小道具が色々出てくるスパイものにおいては、この手のカットアウェイは非常に効果的です。さらに、その直後のパーティ・シーンで用いられているクロスカットも、サスペンス映画における教科書的な技法で、主人公二人に感情移入させるには絶好の手口です。

しかし、私個人が敢えてイチオシしたいのは、ラストシーンにおけるシンメトリの構図です。この構図の中で、クレーンアップによって、ドイツ軍関係者たちの不気味な姿が浮かび上がります。クロード・レインズはその後どうなっていくか。それは明示されはしませんが、そのシンメトリの構図自体に、その答えは映っているわけです。この「一見は未定」の状態こそサスペンスの本質ではないでしょうか。バーグマンおよびケイリー・グラントの演技に若干の疑問は残るものの、それを補ってあまりあるヒッチコックの演出手法。十分に佳作の域にある作品と言えます。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)緑雨[*] jollyjoker 3819695[*] Keita[*]

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