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[コメント] ウィズ(1978/米)

オズの魔法使い』を観ていないのが幸いしてか、バスキアやヘリングのポップな絵が立体化したようなカラフルな世界は充分に愉しめた。全員黒人によるミュージカルとしても見応えあり。現実の街を幻想に染める、ストリート・アートとしてのファンタジー。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







奇妙な世界に突然放り込まれたドロシーは最初の内、家に帰る為にオズに行く事で頭が一杯。「オズ行き」の表示を出していたイエローキャブが、彼女が駆け寄るたびに「回送」に切り替えてしまうので嘆くのだけど、その内そんな事は気に留めなくなり、遂にはイエローキャブの表示自体が画面に映らなくなってしまう。そしてドロシーたちは自分たちの足で黄色い道を歩いていく訳だが、勿論これは、彼女たちがそれぞれに求めるものが実は自身の中に最初から在ったのだと気づいていく過程の暗喩だろう。鉄とコンクリートが幾何学的な形状を見せる都会の光景が、黄色いレンガ模様のシートを敷いただけでメルヘンチックに見えてしまう様には、目が醒める思いがする。

ドロシーについて来る事になる三人、案山子、ブリキの木こり、ライオンは皆、登場時には、棒に縛りつけられていたり、廃墟の遊園地に放置されたまま錆びついていたり、石の彫像の中に閉じこもっていたりして、人格的な存在ではなく物体として現れる。この、物が動く、という所にこの映画のファンタジーの全てが賭けられているように思う。ドロシーが最初に出会う人々からして、壁の絵から抜け出てくるのだから。

彼らと別れたドロシーが外に出た時の、真っ赤な夕焼けに染まった光景の鮮烈さ。単に陽気にカラフルなだけではなく、薄暗さや闇も、色を際立たせる要素として利用している場面が多い。それはまた、犬にしか心を開けない内向的なドロシーを主役に据えた大人のファンタジーであるこの映画の色調としても、相応しい。

ところで、最後にドロシーを帰してくれたあの善い魔女の登場時、後ろで子供たちが星の中から顔を覗かせているけど、その中の一人が嬉しそうに周りを見回しているのが目に留まった。この、欽ちゃんの仮装大賞とか(僕は萩本氏、苦手ですけど)、メリエスの映画を彷彿とさせる緩い雰囲気には、和まされてしまう。

(評価:★3)

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