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[コメント] 七人の弔(2004/日)

無条件の愛、条件付きの愛、無条件という条件付きの愛。(『生きない』のネタバレあり→)
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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限りなく☆2に近い3。アイデアは良いんだよな、アイデアは。ダンカンが以前に脚本と主演を担当した『生きない』がかなり面白かったから、期待してたんだけど、どうも彼は監督には向いていない。まあ、初監督だから仕方ない部分はあるのかも知れないけど。

生きない』同様、通俗的なバス・ツアーを舞台装置としつつ、人間どもの虚無的な生と、その裏返しとしての死を、乾いたタッチで描いた作品。彼の師匠のたけしが描く‘死’は、殺気を孕んだ張り詰めた静寂を突如として破る、火花のように炸裂する‘死’。それとは違ってダンカンの描く‘死’には、「もう、しょうがない」、「どうでもいいや」、「こうする方が楽なんだし」という、なし崩しの倦怠感と虚無感が漂う。そしてそれは、どうという事の無い日常性に刻まれた死相であるだけに、映画的な‘華’も無い、より普遍的な死生観のようにも思える。

しかし、今作の場合、『生きない』の冷めたリアリズムとは対照的な、わざとらしいコメディ色や、説明的な台詞の不器用さ、役者のヘタな演技など、観る気が失せるような欠陥が多すぎる。役者のヘタさについて言うと、子役にはまぁ巧い子もいるんだけど、年が上の子らの方が却ってヘタで、完全に学芸会レベルの演技力。とは言え、川原真琴ちゃんは可愛いので、これからも頑張って下さい。で、問題なのは、この演技経験の乏しい、或いはゼロの子役らをフォローすべき大人たちの演技もまた、テキトウに今までのノウハウと言うか、惰性で演じてるだけにしか見えない点。この辺は、半分は監督のダンカンのせいだけど。尤も、そのダンカン自身は、能面のような無表情さの中に微妙な陰影を刻んでいて、一応、役者としては役目を果たしている印象。意外とこの人、他人を‘監督’するには、優しすぎる性格なのかもね。

先に述べたように、アイデア自体は良いんですよ。正直、オチは途中で早くも読めちゃったけど、にも関わらず、と言うか、むしろそれ故に、終盤のクライマックスは結構ワクワクしながら見られたし、皮肉でありながらもどこか希望も感じられる、ああいう落とし所を選んだのにも納得できる。親を無条件で愛する子どもたちと、命と引き換えに自分の金になってくれるという条件付きで子どもを愛する親たちの対比という着眼点も良い。もし、演出的・脚本的に巧くいっていれば、と惜しまれる。

ラストでのバスの使い方を『生きない』と見比べてみると、この作品の立ち位置なんかも良く分かる。『生きない』では最後にバスが崖下に落下して終わったけど、今回は、子供たちが元気よく「♪いいな、いいな、人間ていいな♪」と歌う声を乗せて走り続ける。「僕も帰ろ、お家へ帰ろ」と、自らの親たちを抹殺した子供たちが歌う姿は旋律的かつ戦慄的。親を無条件に愛し、親から虐待されてもついて行っていた子供たちが、むしろ親たちが自分たちを、命と引き換えに金銭に替えるという条件付きで愛した事を知った時に、親を殺す事を決意する、というのは、中々深い。

(評価:★3)

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