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[コメント] 静かなる決闘(1949/日)

柵、雨、光。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







黒澤明という人は、雨の映像作家と呼ぶべき面があった。冒頭の手術シーンでの大雨は勿論、その時に藤崎に梅毒を感染させてしまう患者の中田が、後の再会の際に藤崎からその事を告げられて、自棄になってコップに注ぐ酒、そのショットに続く雨。雨は、音と光のエネルギーそのものであり、この作品でも、室内を照らす外光の揺らめき、という間接的な形で雨が画面に干渉していたりする。他の作品でも、水面のさざ波の輝きといった静的なイメージなどに変奏されつつ、水=光の演出は反復される。演出的に優れているのは、『羅生門』や『七人の侍』のように派手な大雨だけではない。

光といえば、ラストでの、看護婦の峰岸が中田の妻を励ます場面で、鏡の反射光で遊ぶ描写も印象的。加えて、洗濯物の白さに希望や浄化への念を託すというのもまた黒澤印の演出だ。

他、自らの倫理観から抜け出したくても抜け出せない束縛感に苛まれる青年医師の劇に相応しく、病院を囲む柵を捉えたショットでの心情描写が光る。柵に絡まった蔦に花が咲いていたり、枯れていたり、雪が積もっていたり。思えば、この作品の大半が室内の場面で構成されていたのではないか。だからこそ、窓の外や扉の外が映り込むショットの印象が強い。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

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