コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 男たちの大和 YAMATO(2005/日)

女達の、彼女らの為に死ぬ覚悟の男達に「死ぬな」と追い縋る演技は真に迫って感動的だが、感傷過多な音楽が乗っかってくるのが鬱陶しい。男達の人物像が一本調子なせいで、血の噴水広場と化す大和の甲板シーンも悲惨さより視覚的な派手さの印象が強い。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







反町隆史中村獅童の、むやみに喉に力を入れた発声は、単調かつ大仰で、殆どヤクザ映画調。その獅童も、寺島しのぶ演じる芸者との遣り取りでは、自然な台詞回しが味わい深い。男達同士のシーンでも、こうした自然さが見られたら良かったのだが、全員、始終肩に力の入った演技でガチガチに固まっていたのが難。女達の、あまりに現代風にストレートな感情表出にはやはり違和感は覚えたが、この映画は当時の時代性を忠実に再現した映画というよりは、戦艦大和のコスプレによるメロドラマとして観た方が良さそうだ。

相変わらず渡哲也は単に渡哲也としてそこに居るようにしか見えず、大和内でもどこか浮いた存在。現代パートでの仲代達矢は、感極まったように強ばった表情で目を潤ませる、という単調な演技であるし、『老人と海』風に彼の船に同乗している少年の分かりやすい良い子ぶりや、鈴木京香のどこか空々しい演技など、現代パートが不要と感じさせられるのは大和パートと比して締まりが無いからだろう。

現代パートが、仲代=神尾(松山ケンイチ)の心残りを解消させる為に置かれている事は分かるし、そこに至るまでに六十年の時間を要したという事それ自体が彼の想いの深さを物語っているのだという事も分かる。タイトルバック直前に、仲代が舵をとる姿のクローズアップに続いて大和の船首のクローズアップが繋げられるという、恰も仲代が大和の舵をとっているかのようなカット割りが為されている事からも、仲代の明日香丸が大和に擬せられている事は見てとれる。原爆で死んだ妙子(蒼井優)、神尾が大和で死を覚悟して闘って守ろうとしたにも関らず死なせてしまった妙子が名づけた明日香丸に、真貴子(鈴木)という女性を乗せて行くという事。そこに、六十年後の平和な日本を象徴させたかったのだろうとは思うのだが、如何せん、そこで展開されるドラマが余りに薄味。平和の有り難さの実感が弱められている上に、何か現代の平和ボケした空気さえ感じさせられてしまう。

戦争の状況の変化が説明的なナレーションによって処理され、コロコロと場面が切り替わる様は、演出的ないい加減さが気になる。だが大和の戦闘シーンの迫力だけは一応認めないわけにはいかない。対空砲用の弾丸や、床に転がる夥しい薬莢の巨大さ。方角指示、横移動ハンドル、縦移動ハンドルという三人の共同作業で為される対空射撃シーンの連帯感と、誰か一人撃たれる事の危機感。頭上から降り注ぐ敵機の攻撃によって血の噴水広場と化す甲板の血生臭さと、負傷者が運ばれた医務室まで振動と傾斜に襲われる容赦の無さ。対空砲火の、最初は密集した敵機の群れに対して有効ながらも、敵機が分散した後では殆ど当たらないという悲惨さ。魚雷を避ける為に急いで舵を回す様。俯瞰ショットでの、集中攻撃を受けて、巨大な鯨が悶えるような悲壮感を漂わす大和。製作者たちが巨額をかけて作りたかったのは、やはりこの辺のシーンなのだろう。演出的に充分かどうかはともかくとして、気合いは感じる。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)sawa:38[*] ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。