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[コメント] 大統領の陰謀(1976/米)

効果音やBGMも控えめで、事の発端となる事件の描かれ方さえ地味なのが、却って面白い。記者の仕事は、人から聞いて集めた些細な情報を繋ぎ合わせる地味な作業なのだと痛感。ディープスロートという超越的な存在によって初めてサスペンスとして成立している。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ディープスロートは、彼が姿を現わす駐車場の闇や沈黙さえもが、彼という人物を作り上げている。劇中で三回登場するディープスロートの、毎回照明の当たり方が違う点も演出的に重要な所。最初は目だけに光が当たり(黒澤映画などで時折見かける演出法)、ウッドワード(ロバート・レッドフォード)を闇の中から監視する、一種、非人間的な存在として現れる。二度目には、画面左側から青く冷たい色の光が当たり、少し人間らしさが覗けて見える。最後の登場場面では、画面右側からの光に晒されているが、今度はより暖色というか、色彩の感じられる照明の当て方がされている。この場面は彼が、ウッドワードの「もう謎かけは沢山だ!」という激しい訴えに応え、事の真相をより明確に伝える場面。この、ディープスロートの生身の人間としての存在がほの見えた辺りで物語から退場させる、という按配が絶妙。

最後、ウッドワードが黙々とタイプを打つ姿が、ニクソンの大統領職続投の宣誓の光景を映すテレビの右側に見えるが、二人とも、同じく右側を向いている事で、この二人の「対決」としての構図が出来ている。ニクソンの「合衆国憲法を順守し…」という言葉が聞こえてくる。だが、ここで憲法(に書かれた報道の自由)を守ろうとしているのは、ウッドワードなのだ。

とは言え、この後の経緯が文字だけで示されるのはやや興ざめで、記者たちの奮闘に長時間付き合ってきた観客は、ここで急に一新聞読者の立場に強制送還されてしまうのだ。何だかほったらかしにされた気分。

固有名詞が頻出するので混乱させられるが、その中から幾つかの特定の名が繰り返され、浮上してくる過程がこの映画の醍醐味の一つでもある。尤も、海外の映画の場合、人名と、顔や声などがこちらの頭の中で一致し難いのが、観ていて辛い。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] 死ぬまでシネマ[*]

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