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[コメント] 松ヶ根乱射事件(2006/日)

これは、事件。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







罠にもかからず、交番の天井裏で足音をさせるネズミども。「モトから断たなきゃ」。モトが何処にあるのか分からないので、虚空に乱射。ネズミは何か実害をもたらす訳ではない。ただ、その存在そのものが煩わしい。明確な「悪意」よりもむしろ、平然と日常の光景に居座る、他者性の煩わしさ、ネズミのように、すぐ近くでノイズを発するその存在が、澱んだ空気のように、息苦しさを与えてくる。

他にもっと事件らしい事件が起こっているのに、結局、タイトルにはあの、何の対象も持ち得なかった乱射事件が採用される。あの村社会の中では、事件はいつしか、村の平穏さに空気のように溶けてしまうのだ。だから、そんな「空気」を撃った乱射行為こそ、最大の事件なのかも知れない。あの交番の前は、小学生たちが、警官に明るく挨拶を送って登校する道であり、そんな最も平和な「空気」が、撃たれるのだ。これは、事件。

だが、小学生が無邪気な存在でない事は、この映画の冒頭で、雪原に倒れる女の体をまさぐる男子小学生の姿から明白。そんな人間の赤裸々な欲望を、肯定するでもなく、笑い飛ばすでもなく、ただ描く。乱射した警官も、すぐ交番に戻ってしまう。松ヶ根‘を’撃った行為は、松ヶ根‘で’撃った行為に、あっという間に回収されてしまうのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)クワドラAS[*] パグのしっぽ Santa Monica NOM おーい粗茶[*] sawa:38[*] ペペロンチーノ[*] ぽんしゅう[*]

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